「6度目の大絶滅」エリザベス・コルバート著2015年12月23日 吉澤有介

地球上では、かって5度にわたる大規模な生物の絶滅が起きました。原因はさまざまでしたが、現在はいずれもほぼ解明されています。例えば6500万年前のアンモナイトや恐竜の絶滅は、大隕石の衝突によるものでした。遠い地質時代の出来事だったのです。
ところが本書では、現在私たちの目の前で6度目の大絶滅が進行中だといいます。サイエンス・ライターである彼女は、世界各地の現場を訪ねてその原因を確かめました。生物の多様性が急速に失われているのは、ほかでもない私たち人間の所業だったのです。
パナマでは、幸運の象徴とされていた固有種の色鮮やかな金色のカエルが、僅かこの数十年ほどの間にすっかり姿を消していました。動物病理学者たちがようやく突き止めたその原因は、人々が持ち込んだツボカビ菌によるものでした。また北米では、多くの州でコウモリがバタバタと死んでいました。深い森の中の洞窟で、コウモリの死体が積み重なっていたのです。これも観光客が持ち込んだ外来の病原菌による白鼻症候群が原因でした。生物学者は、これを「背景絶滅」と呼んでいますが、グローバル化で一挙に進んだのです。
人間がいなければ、たいていの種は長距離の移動はできません。山や川、それに海などの障壁があるからです。生物は、限られた地域で多様化し、繁栄してきました。それが大陸の移動によって地球上に拡散してきたのです。人間によるグローバルな移動も、視点を変えれば生物相のごく新しい現象であるとともに、古い世界の再現でもあります。私たちは世界を、障壁のない一つの超大陸「新バンゲア大陸」に変えつつあるともいえるでしょう。人間や病原菌などの凶悪な外来生物が、どこにでも容易に侵入してくるのです。
一方、海の酸性化も恐るべき様相を呈しています。地中海にある小島が格好な研究対象になりました。島の片側に熱水噴出孔があって、二酸化炭素が噴出しているため、そこだけ海水が極端に酸性化しています。世界の海が、大気中の二酸化炭素の増加によって酸性化してゆく今後の変化を、この海域を見ることで予測することができるのです。ここでは海水のPHが、これまでの平均の8,2から7,8まで低下していました。PHスケールは対数で表示されるので、この変化は150%の差に相当します。海中ではフジツボが消え、巻貝やウニなどが極端に少なく、隣の海域に比べて生物種の3割が見当たりませんでした。IPCCによると、人類がこのまま化石燃料を使い続けると、今世紀末までに海水面のPHはこの7,8まで低下するというのですから、これは極めて深刻な話なのです。海洋酸性化は石灰化生物に特に致命的だとされています。著者は、オーストラリアのグレートバリアリーフのサンゴ礁でつぶさに観察しました。酸性化を示すもう一つの指標である炭酸カルシュウムの飽和度が低下して、サンゴ礁が溶けはじめていたのです。褐虫藻など多様な生物の生態系を支えてきた中心的な存在が、今まさに消えようとしていました。
これらの悲惨な出来事が持つある共通点は変化であり、より正確にいえば変化の速度なのです。熱帯多雨林を伐採し、大気の組成を変え、海を酸性化して、私たちは自身の存続をも危険に晒しています。大量絶滅は弱者だけでなく、強者をも滅ぼすのです。「了」

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