「カラス学のすすめ」杉田昭栄著2019年1月18日 吉澤有介

緑書房2018年6月刊 著者は、動物形態学、神経解剖学が専門の宇都宮大学名誉教授で、およそ20年にわたるカラスの研究で、「カラス博士」と呼ばれています。カラスは古代から特別な存在として、八咫烏をはじめとする多くの物語に登場してきました。ごく身近にいて人々の生活に深くかかわり、その知能の高さは広く知られていました。しかし近年は、都市部におけるゴミの食い荒らしや、電柱への営巣による送電障害、太陽光パネルを割り、光ファイバーを齧るなど、マイナスのイメージが大きく浮上しています。一方、学術研究の世界では脳科学や行動科学の分野で、カラスの認知能力や知的行動が、あらためて注目されるようになりました。

日本でよくみられるカラスは、動物分類学では脊椎動物門鳥綱スズメ属カラス科カラス属のハシブトガラスとハシボソガラスです。どちらも雑食性ですが、東京などの都市部に多いのは大型のハシブトガラスで肉が好き、農村ではやや小型のハシボソガラスが多く、カエルや虫、木の実、畑作物の種や芽などを好んで食べます。ともに朝早くねぐらを出て、エサを探したり水遊びをして、日没になると一斉に帰ります。巣づくりは3~4月で、幼鳥の巣立ちは6~7月です。その後2か月は教育期間で、親鳥から自然界での生き方を学ぶのです。

カラスの骨格や羽の構造、内臓のしくみは猛禽並みで、クチバシには恐るべきパワーがあります。著者は、大手電気設備会社から相談を受けました。ビルの屋上などにあるエアコンの室外機のパイプの断熱材が、カラスにボロボロに食いちぎられるというのです。圧力測定用紙で実験したところ、ハシブトガラスの突く力はオスでMax27ニュートンもありました。これは驚くべき力です。その実験結果で断熱材のカバーを改良することができました。

カラスの知的行動の謎は、脳の大きさと構造にありました。体重当たりの脳の重さでみると、ニワトリが0,12%なのに、カラスは1,4%で、ヒトの1,8 % に極めて近いのです。脳幹に対する大脳の大きさでも、他のトリよりもはるかに大きく、外套がよく発達しています。

その知的能力は、さまざまな実験で明らかになりました。まず人間の顔を覚えます。15人の顔写真を、いとも簡単に識別しました。横向きの顔でも見分けるのです。男女の顔も見分けました。さらにカラス同士の顔も写真で識別しました。一桁の数字もわかります。しかもその記憶を少なくても1年は保つことを確認できました。28羽のカラスが証明したのです。カラスにはエサを貯食する習性がありますが、その場所を確実に記憶しています。

カラスの五感は極めて鋭敏です。色覚では、人間は赤、緑、青の3原色ですが、カラスは紫外線を加えた4原色を感知していました。嫌いな色はありません。黄色が嫌いは俗説でした。食品サンプルと本物も、即座に見分けました。紫外線の違いで、紫外線をカットすると、見分けられなくなるのです。そこで紫外線をカットするゴミ袋を開発して評判になったのですが、コストが高くてまだ普及していません。一方、嗅覚は鈍いことがわかりました。

カラスの行動範囲は、GPSで追跡すると平均5㎞でした。害虫を食べる有益性もありますが、牛舎の乳牛を攻撃したり、都会のゴミをあさるなどの悪事も彼らの習性です。私たちはドローンやAIなどを工夫して、知能の高さに合わせた共生を目指したいものです。「了」

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