「東久留米市南沢の自然散歩」 2012年10月6日 吉澤有介

   この夏の猛暑の一日、小金井市のエコハウスを見学した際に、隣の滄浪泉園に立ち寄って武蔵野の自然を伝えるハケの道の湧水を見ることができました。我が家の近くにもいくつかの泉が湧いています。武蔵野に湧水はつきものと言ってよいでしょう。

 ようやく訪れた秋の気配に誘われて、西武線で東久留米の湧水を巡る散歩に出かけました。ここは愚息が住まいを持っているので、土地カンもすこしあります。東久留米市は自然豊かな静かな街ですが、羽仁もと子の自由学園が戦前からこの南沢にありました。その建物は、建築家遠藤新の作品で、東京都の歴史的建造物に指定されています。 

 まず駅に展望デッキ「富士見テラス」があるのが珍しい。駅からまっすぐに伸びたマロニエ並木の大通りの正面に富士山が見えるのです。この日は残念ながら姿を見せませんでしたが、冬晴れの日には、ここが絶好の撮影ポイントになります。街そのものが、富士を取り入れて建設されたのです。

 そのマロニエ通りにある近代的な市役所から左に入ると、湧水を集めた清らかな落合川に出ます。そのほとりに由緒ある南沢氷川神社が鎮座していました。祭神はスサノオノミコトとクシナダヒメ、それにオオナムチノミコトです。関東にある多くの氷川神社は、さいたま市の大宮が総本社だそうです。古代に出雲族がこの地に住み、武蔵の国造も出雲族から出ていました。氷川は緋の川の故事にならったもので、泉や河川の神様になったというわけです。祭神のスサノオとクシナダはわかりますが、オオムナチノミコトは大国主命の別名です。盛名高い大国主命を隠して祭ったとは、やはり大和王朝をはばかったのでしょう。それはさておき、隣接する南沢緑地の湧水は実に見事なものでした。

 深い林の崖の下から、湧水が豪快な滝になって流れ出ているのです。さすが「平成の名水100選」に東京都で唯一つ選ばれた湧水でした。極上の天然水として遠方からもクルマで汲みにくるひとが多いそうです。カルガモもゆったりと遊んでいました。

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        南沢緑地の湧水             落合川の流れ

 ここから発した流れは落合川に合流し、その川岸には天然河畔林を従えた心地よい遊歩道が続いています。流れはどこまでもきれいで水草も豊か、自然の岸辺は花一杯ですから楽しくなってしまいます。この落合川の一番の特色は、市民も子供たちも岸辺の芝生から自由に立ち入って遊べることでしょう。自然に親しむ子供たちの歓声は嬉しい限りでした。

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           流れに遊ぶ               竹林公園 

 また途中の河畔には竹林公園がありました。面積はさほどではありませんが、手入れの行き届いた見事な孟宗竹の林です。これこそ本当の竹林というものでしょう。ここにも小さな泉がありました。駅はもう間近です。
 秋の日の楽々散歩でしたが、歩数計では1万歩近くになっていました。東久留米にはさらにいくつかの散歩コースがあるので、皆さんも気軽にお出かけになってはいかがでしょうか。ただ気になったのは、このような楽しいコースがあるのに、そのガイドマップが駅にないのです。なんと市役所で聞いてもありませんでした。市のホームページには、立派なパンフが紹介されていたのに、現物は全くどこにも見当たりません。最近はどの行政でも街おこしに観光客を呼ぶ試みが盛んになっています。小金井市はとくに力を入れていました。私の練馬区でも、ガイドマップだけでなく「まっぷる」と提携し、特集号を出して成果を上げています。もったいないことでした。「了」

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