みちのくの原生林を巡る(その1) 2010.7.4

 我が国の自然林はその殆どが人手の入った二次林であるといわれています。
古くからの原生林はごく一部に残されているだけなのです。
今夏はその希少な原生林を求めてみちのくのひとり旅をしてきました。

梅雨空の東京を7時の「はやて」に乗ると9時半前には盛岡に着いています。
予想通りここは青空で岩手山もその雄大な姿をみせてくれました。
駅前からすぐに路線バスで八幡平頂上に向かいます。
岩手山の北麓の牧草地をまわって、八幡平アスピーデラインに入るとやがて見事な白樺の林となり、それが次第にアオモリドドマツに変わってきました。
黒谷地を過ぎるとあちこちに残雪があらわれ、あたりはすっかり高山の風景です11時半にはもう八幡平頂上駐車場着ですから、全く信じられないほどの早さでした。
ここはすでに標高1600mで、先ほどまでの下界の暑さを忘れてしまいます。
岩手山はガスに隠れてしまいましたが、お天気は何とかもちそうです。

八幡平の頂上一帯には、広大な湿原と多くの池があって、さまざまな高山植物が迎えてくれました。遊歩道もよく整備されて、どなたでも快適に歩くことができます。
東京からこんなに早く、これほどすばらしいお花畑に出会うところはまずありません。尾瀬も人気がありますが時間もかかり、しかもかなりの健脚が必要です。

高齢者向けとしては、この八幡平が一番でしょう。日帰りも充分できます。

dscn3198.JPG dscn3200.JPG

八幡沼に向かう道  コバイケイソウ

 私の好きなチングルマは一斉に咲き揃っていましたし、水辺にはミズバショウも群れていました。時期もちょうど良かったようです。
それなのに人影はほとんど見えません。

dscn3229.JPG dscn3232.JPG

    ガマ沼の残雪 アオモリトドマツの原生林

晴れていたら岩手山から早池峰山や鳥海山まで見えるようですが、これは残念。
今夜の宿は西の麓の後生掛温泉と決めていたので、このまま秋田県側のバスで下れば極楽ツアーなのですが、今回はなんとしても八幡平西斜面の原生林を見たくて、やや無謀にも一人で大沼方面のコースを下ることにしました。
お天気も持ちそうでしたし、装備も一応は揃えてきたからです。
しかし、しばらく歩いてから気が付きました。ここはクマの王国でもあったのですね。だれも通る人はいないので、これは大変と覚悟を決めました。
クマ除けの鈴を鳴らし、あたりに気を配りながらの3時間はそれ以上の長さにも感じます。

 

dscn3239.JPG次々に湿原が現れ、アオモリトドマツも次第に大きくなってくると、やがて台地の端の急な下りになり、足元に気を取られているうちに、あたりはいつのまにか鬱蒼としたブナの原生林に変わっていました。
直径
1m以上もある巨樹が続々と迎えてくれます。
樹齢はたぶん300年は優に超えているでしょう。
原始の姿に霊気が漂って、写真に撮ることも怖いほどに圧倒され、どうしてもシャッターを押すことができません。ついにここでの記録はなしです。
私にとっては旧制新潟高校山岳部時代の飯豊山以来の懐かしい原生林で、クマの怖さも足の重さも忘れて、しばらくは夢の中を歩いているようでした。

ようやく後生掛温泉が見えてきたのはまだ明るいうちでしたが、先ほどからすっかり雨になっていましたから、高齢者にはすこしムリをしすぎた山旅だったでしょうか。
今後はもうすこし自重することにしましょう。「続き」  記 
吉澤有介

カテゴリー: メンバーの紀行文集 パーマリンク