「タンパク質とからだ」平野 久著 2017年6月10日吉澤有介

- 基礎から病気の予防まで -    中公新書2017年1月刊
タンパク質は、私たちの体重の約20%を占めて、水分の60~70&に次いで多い主要成分です。皮膚の弾力を維持するコラーゲンや、筋肉を伸縮させるミオシン、血糖値を調節するインスリン、酸素を運ぶヘモグロビンなどで、さまざまなはたらきをしています。本書では、近年の生命科学の発展をもとに明らかになった、からだの中のタンパク質の全体像を克明に記述しています。若い研究者や、医療関係者にもきっと役立つことでしょう。
ヒトの遺伝子が作り出すタンパク質は約2万種類あり、それぞれ構造もはたらきも違っていますが、どのタンパク質も共通して20種類のアミノ酸から構成されています。DNAの遺伝情報は、細胞核内で伝令RNA(mRNA)にコピー(転写)され、mRNAが核外に出てリポソームと結合し、20種類のアミノ酸を材料としてタンパク質を合成します。そのアミノ酸の並び方でタンパク質の形が決まるのです。タンパク質の基本的な立体構造は、1万2千種類ほどあると考えられ、それぞれの機能を制御しています。近年、この分野の研究は「構造生物学」として飛躍的に進展し、ノーベル賞の受賞者が続出しています。
タンパク質は、主に身体の構造を支えていますが、体内の化学反応を助ける酵素もタンパク質で、その種類は4千以上もあります。また遺伝子発現に際しての転写や翻訳作用を制御しているのもタンパク質で、ヒトでは1800種類以上もあるといわれています。さらに細胞増殖、分化、恒常性を維持するのも重要な機能で、神経ペプチド、ホルモンなどがあります。インスリンもその一つで、免疫グロブリンも外界因子から生体を防御しています。
タンパク質の製造工場であるリポソームの立体構造解明は、2009年のノーベル化学賞となりました。電子顕微鏡でようやく見えるほどの細胞内小顆粒で、イスラエルのヨナスが20年かけて結晶化に成功しました。X線結晶解析技術の発達が大きく貢献したのです。
一方タンパク質の分解工場があります。その分解酵素はプロテアソームと呼ばれ、日本の研究者が大きな研究成果を挙げています。分解にはもう一つの仕組みノリソソームがあり、それらの細胞内の小器官や病原体などを分解するプロセスは、大隅良典らによってオートファジーとして解明されました。40種類ほどの関連遺伝子を発見してノーベル医学・生理学賞を受賞しています。オートファジーの異常が疾患の原因とわかったのです。
からだの中にあるタンパク質の研究は、ゲノム科学のゲノミクスに対応してプロテオミクスと呼ばれます。その発展を支えたのは質量分析装置とその周辺技術で、多数のタンパク質を高精度で同定し、タンパク質同士の相互作用や複合体まで網羅的に解析できるようになりました。この貢献で、2002年に43歳の田中耕一がノーベル化学賞を受賞しました。
2万種類のタンパク質がいつ、どこで、どれくらい発現しているのか、病気になるとどのように異常になるのか、これがわかれば病気の予防や早期診断、治療に大きく役立つことになります。そこで2010年、すべてのタンパク質の発現マップを作成する国際共同研究がスタートしました。活性酸素による障害予防、バイオマーカーの活用なども進んでいます。本書には、それらの先駆的研究と、解明された膨大なデータが満載されていました。「了」

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