地球最後の世代 フレッド・ピアス著NHK出版協会

 - 自然が人類に報復しはじめた。
著者は1951年ロンドン生まれのジャーナリストです。扉の解説には
 「温暖化に懐疑的であった著者が、世界中の科学者を訪ね歩き目の当たりにし
  た地球/それは一刻の猶予もならぬ危機的状態だった。」
いますぐ食い止めないと、地球は転換点を超えてしまうだろう。
私たちは、穏やかな気候の地球に生きる最後の世代になるかもしれない」とありました。
ここでは懐疑派の眼で調べまくった地球の実態と、それに対する気候学者や地球物理学者
たちの実証的な研究や推論を、それぞれに手際よくまとめて解説してあります。
したがってこの本自体が2005年現在の地球環境問題の要約になっているので、この一冊で
地球温暖化についての議論の争点が、早わかりとしてほぼ把握できるでしょう。

目次とその内容

 

1.          人類の時代へようこそ
・先駆者たち:地球の呼吸を測った男たちアレニウスに始まる研究者の歴史は興味深い。
とくにキーリングの業績は大きかった。以来膨大な研究がおこなわれている。

・温度の上昇:懐疑派のための温暖化ガイド1980年代からはイデオロギー論争までに及
 んだ。温度測定の信ぴょう性もあったが最近は科学的なコンセンサスが生まれつつある。
・人新世:地球は新たな時代に入ったか世界の変化が大きすぎるため、新しい世代区分と
 して定着しつつある。
地球はこれまでの安定期から次の激動期に入ったとみるからだ。

 

2.              氷の断層
・北緯90度:解け続ける極北の氷
北極圏ではすべてが極端だ。水か氷のどちらかしかない。
今世紀に入って海の氷がなくなった。
凍土からはメタンが溶け出している。

・危険な坂道;グリーンランドが海に沈んでゆく   
地球上の三大氷床の一つが急速に解けだした。
加速のメカニズムが働いているらしい。


・棚氷:氷の崩壊が南極の栓を抜く         
2002
年に南極の巨大な棚氷が崩壊した。
これが内陸の親氷河の移動を早めている。
その速度は棚氷のあったときの8倍にもなるという。

 

3.              炭素循環に乗って
・ジャングルにて:もしアマゾンが消えたらアマゾンの現地で実験をした科学者が
いる。2年雨が降らないと木が枯れて火災が起き、森が消えてしまうという。
 その確率は高い。

・ボルネオの火災:燃える沼が気候を追い詰める
エルニーニョで乾燥した年に火災が多発した。
それが近くの泥炭層に引火して、影響は世界の炭素収支まで及んだ。

・吸収源から排出源へ:炭素循環のUターン     
CO2
で森林が生育して吸収源になる以上に、枯れた樹木の分解や火災での炭素排出
になるケースが続出してきた。転換点があるらしい。

・最終兵器:永久凍土の中で致命的な秘密が目覚める著者はシベリアの現地を調
査した。凍土表面の地衣類やコケが解けて、無数の湖になっている。
メタンの発生源が解放されているのだ。


・変化の嵐:津波、
大放出55百年前に大異変があって、多くの生物が絶滅した。
メタンの大量放出で、気温が一気に10℃急上昇した。
その再現の可能性がある。

 

4.              温暖化と反射
・雲の光と影:気候モデルの欠陥を暴く      
水蒸気と雲の影響はCO2を上回る。
しかしその実態は捉えきれていない。
エアゾルも同じだ。煤の問題もよくわかっていないという。


・無数の炎:褐色雲がモンスーンを止めるインドの褐色雲は脅威だ。
強まるとモンスーンが止まり、アジアが干ばつになる。
アマゾンでも心配だ。食糧危機になりかねない。

 

5.              氷期と太陽のパルス
・大凍結:地球の軌道が氷期を引き起こす    
氷期の研究は大きく進んだが、氷期と間氷期の切り替えのメカニズムはわからない
ままだ。温室ガスの限界が関与するというが。

・海洋コンベア:デイ・アフター・トモロー 
ブロッカーの説で、海水の塩分の変化でコンベアが突然止まることが心配されて
いる。世界の気候に甚大な影響が出る可能性があるという。


・北極圏に咲く花:気候のスィッチバック
1
3千年前に氷期が終わって、サハラは緑になり、熱帯雨林も拡大して生命が
溢れた。それがまた一気に逆戻りした。そのカギは?

 

6.              熱帯の熱
・パルス:太陽が気候変動を引き起こす    
小氷期と中世温暖期は、文明や民族の興亡に大きく影響した。
そのパルス変動は太陽のせいらしいが、今の人為的効果はもっと大きいという。

・崩壊:アフリカの黄金期の終焉         
サハラに雨が降って緑が豊かだった時期は、ある日突然終わった。
世界各地でも砂嵐が荒れ狂ったのだが、この逆もあるかもしれない。

   
・海をまたぐ風:サハラ砂漠がアマゾンを緑化する
この二つの地域は、シーソーのように気候的に関連しているらしい。
21
世紀にサハラが湿潤になると、アマゾンが干ばつになるかも?

 ・アッカドの呪い:環境決定論の復活       
43百年前メソポタニアで栄えたアッカド帝国が突然崩壊した。
原因は急速の砂漠化だったという。
気候変動が歴史を変えたのだ。


・アジアを養う:もし雨が降らなくなったら    
モンスーンの歴史をみると、19世紀には何回か弱まった時期があり、
たいへんな大飢饉になった。
エルニーニョと関連があるようだ。

 

7.              千年紀
・熱波:ヨーロッパが地球温暖化を実感した年   
2003
年に襲った熱波は35千人の死者を出した。昼は40℃、夜も30℃を超えた。1370年来のことだったという。


・ホッケー・ステック:鵜呑みにはできないが    
代理指標データは地雷原のようなもの。派手な論戦があったが、過去にも変動があったなら現在今後もなお変動が大きくなることだろう。

 

8.              避けられない不意打ち
・ダンス:気候をリードするのは極地か熱帯か?  
ここでも両派が激しく論争している。
しかし地球は総合システムだ。
相互に関連して気候変動を加速させてゆくだろう。

・新たな展望:成層圏からのフィードバック    
温暖化が成層圏を通じて北極振動に影響しているらしい。
南極でも同様の影響が発見された。
太陽活動と温暖化が相互に関連している?

結論 もう一つの地球はない             
過去10万年で気候が安定していた時期が2回しかなかった。
あとは異常な急変の時代だ。人類はいまその危険な時代を迎えている。 
文明と人類の生命維持システム全体が危機に瀕している。
それなのに現在の唯一の明確な診断は、不確実さだけしかない。
私の読後感ですが、著者は論点を比較的公平に並べているように思います。
いずれにしても地球環境は、これまでのような恵まれた安定期から一転して急変の時代
に入ったということでしょう。
ここでの論争をみると、どうやら科学的に地球物理や環境を追求する立場と、人類を中
心に環境を考えてゆく立場の二つがあるようです。
前者からみれば、地球にはもともと目的などはありません。
ただ原因から結果が生まれて、その先の自然がどのようになるかを見極めることだけです。
人類などは自然の一部でしかないのです。
しかし後者からみると、その科学的知見を何とか人類の幸福のために役立てるという姿勢
が優先します。
人類の都合からすれば、できるだけ良い方向に進めるようにいろいろな注文が出て、そこ
にまた勝手な思惑もからむことになります。
つまり科学と技術の本質的な問題がここにあるのでしょう。私たちはつい人間中心の
考え方になってしまいますが、自然環境の恐ろしさを忘れることはできません。
地球環境は40億年前に生物が出現してから、相互に共生しながら進化してきました。
大気に酸素が生まれたのが一例です。その生物の一種である人類が、生物としての標準
代謝量の100倍近くのエネルギーを消費するという、巨大な恐竜になって地球を占有し
ているのですから、地球環境に影響するのも当然のなりゆきなのですね。
技術でどこまで対応できるか、まさに人類文明の存亡がかかっているのです。
古代からの文明の盛衰は気候の激変が大きく影響しました。
                                   記  吉澤 有介

カテゴリー: 気候・環境, 自然 パーマリンク

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