木とつきあう智恵   エルヴィン・トーマ    地湧社

著者はオーストリアザルツブルグ生まれ。
チロル地方の営林署に勤務のあと独立して木材加工会社を経営している。
西欧の木材産業の一端がうかがえて参考になる本である。

 

月と森と木の秘密
チロル地方には古くから
「冬の新月の時期に切った木は良質で長持ちする」
という伝えがある。
彼はこのことが事実であることを実験や偶然のできごとを通して証明する。

そのうえ森林局に働きかけ「新月の木」を良質木材の国家証明として明示
することにした。

 

木枯し
伐採した木の乾燥方法に関して。
木を切ったあと枝を付けたまま梢を下に向けて3ケ月ほど放置しておくと
良く乾燥して含水率が40~50%下がる。

枝を付けた幹はもう一度実を付けて種を残そうという生存本能に目覚める。
その結果枝に幹から水分を吸い上げ、葉から蒸発するため幹は軽くなる。
梢を下にするのも樹液を重力によって下げるためである。

 

ふさわしい場所で成熟した木
高地で生まれゆっくり成長したものが絹の肌を持つ最高級の銘木になる。
天然林は落葉樹やモミ、カラマツ、シモフリマツなどの混合林を作っている。
現在のように高度千メートル以下の場所にドイツトウヒの単一人工林が作ら
れているのは異状である。
腐葉土の成分が偏って酸度が強くなる、害虫や菌類がはびこる、嵐や積雪に
対する抵抗力を弱めるといった害を伴うことになる。

 

伐採時期
12月末から1月初旬の新月や下弦の月の頃がベスト。
月の引力がどのような作用を木に与えているのか不明であるが、木材の耐久
性が向上する上、カビなどの菌類や虫に対する抵抗力が強くなる。
楽器(バイオリン、チェロ、ギターやオオボエなど)の製作には薄くて、反
りが無く、自由に振動してよく響く最度の品質が要求される。
製作者は山に行って木を選び、新月の時期に切って充分な時間をかけて乾燥
する。
これが短いと音に落ち着きが無くオーボエなどにはひびが入ってしまう。
(注:月の引力は様々な形で生物に影響を与えているようです。ALリバー
博士のBiological Tides Theory:バイオタイド理論が参考になります)

 

オーストリアのピュアーウッド住宅
正常に育った木材を正しい時期に伐採し、貯蔵、乾燥、加工を適切に行って
家を作る。
化学物質や補助金具など一切使わずに木材だけで仕上げた暖かい、住み心地
の良い家が人気を得ている。木の香りがコクゾウムシなどの虫を遠ざける。
作者はこの住宅会社を経営して木造建築の良さを世界にアピールしている。

         記  福島 巖

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