山を育てる道づくり     田邊由喜男監修 大内正伸著    農文協

 安くて長もち四万十式作業道のすべて

高知県四万十町の田邊さんが町役場に在任中林道作りを始めた。
全国の林道を訪ね歩いて学び彼独自の道作りを完成した。

これが四万十式作業道として崩れない、低コストの作業道として評価されている。
田邊さん曰く
「いい林道は自然を豊かにする道具、悪い林道は自然を破壊したくさんのコンクリートを使う」

作業道の特徴は次の7点

1.       従来の林道との差
従来は車が走り易いことが第一でアップダウンの少ない道作りだった。
四万十式は車の性能がアップしているので山の起伏に合わせ、地形重視で
作る。

2.       垂直切土
道を斜面に切り込む時山側の「のり面」は斜めに作って崩壊や落石を防ぐ。
四万十式では垂直に切り込むことで返って安定するという。
これは上に生えている木の根が深く張ってネットワークで水分や土砂を守
っているが斜面は直接雨を受けて水が侵入、土砂崩壊を起こし易いという。
道作りの時切り込み深さは1.5m以内に収まるよう場所を選ぶのがコツ。

3.       切土重視から盛土重視へ
原則は半切、半盛で残土が発生しないようにすること。盛土は心土との境界
面で滑り易いので傾斜した境界面でなく階段状の床堀をする。
その後床ならしをして基礎をしっかり作りこんでいく。

4.       表土ブロック積みと根株積み
表土20cmの範囲には微生物や種が含まれているのでのり面の緑化材として上
手に活用する。根株も盛土にはさみ込んで路肩の強化や土留めとして使う。
現地で出る石も石組の基本に合う積み方をする。
現場で発生する物を捨てるのでなく積極的に活用すること。
のり面から草や樹木が生長して雨からの崩壊を守ってくれる。

5.       水を克服する
雨水処理が道を崩さない最大のポイント。最も警戒すべきは豪雨である。道は
谷側を低くして雨水を分散して落下するよう設計する。
カーブ地点も外側が低い形にして道の中に水を貯めない。
側溝を作ったりして水を道路に這わせない。

6.       沢水は「洗い越し」に
沢のような地形で水が集まり易いところはヒューム管や橋などを作って逃がさ
ない。豪雨のとき破壊の元になる。
石や丸太を積んで雨水は道の上を直角に流れるように工夫する。
できたら上側に一時的に水を留める小さな貯水池があれば良い。

7.       その他の構造物
盛土路肩に丸太1本を使った「丸太アンカー工法」は急斜面の横断などに使わ
れる。通常は丸太とワイヤーで2~3ケ所のアンカーをセットする。

この方式をとればコストは通常方式の半分で済んでいる。
その理由は
・測量や設計図面を使わない
・コンクリートやヒューム管など機材を使わない
・路面にジャリや敷石を使わない
・2人で道作りをやる
・残土が出ないので捨てに行く作業が無い

感想
この四万十式は現場の知恵の結集である。自然にやさしい方法で、人間の必要とする車道を作っていく事は研究者や官庁の人からは出ない発想である。
全国には様々な地形が存在するので各地域に合った作り方を更に工夫する必要がある。四万十式に加えて全国版林道方式の出現を期待する。
        記   福島 巖

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