「生命はどこから来たのか」松井孝典著 2015年5月3日 吉澤有介

–  アストロバイオロジー入門  –
生命とは何なのか、そして生命と呼ばれるものが、いかにして地球上に出現し、進化したのか、われわれは宇宙で孤独な存在なのか。この人類にとってもっとも根源的なテーマは、21世紀の学問の究極な問いとなっています。NASAは、この生命起源論にアストロバイオロジーと命名しました。現在、研究が爆発的に進展している分野です。
本書ではそうした生命起源論が、今どのような状況にあるかを丁寧に解説しています。その一つが隕石起源です。隕石にアミノ酸の存在は知られていましたが、最近では核酸塩基の存在も確認されています。しかしこれらの有機物が、地球生命とどうつながっているのかは、まだわかっていません。アミノ酸の分子構造のD型、L型の比率が違っているからです。それでも生命の材料物質が宇宙にあることは事実で、最近は宇宙は生命に満ち溢れている根拠が増えています。また20世紀終わりころから始まった惑星探査によって、地球に似たような環境を持った惑星が無数にあることがわかってきました。生命もいるに違いありません。太陽系では、火星をはじめてとして、木星の衛星のエウロバ、土星のタイタンなどの探査で新発見が相次いで、その可能性がますます大きくなってきました。
また地球でも、地表の環境とは全く異なる極限環境下で、生物が生きていることがわかってきました。温度、圧力、乾燥度、水素イオン濃度、放射線環境などに、かなりの広範囲に適応した微生物がいるのです。つまりどんな惑星環境であっても、そこに微生物が配達されれば生き延びる可能性があるのです。ということは宇宙から生命がやってくるというより、逆に地球から探査機などで運ばれる可能性もあるわけです。われわれが他の天体から持ち帰った生命が、地球のモノかも知れない。その判別は極めて難しいのです。
地球生命の誕生と進化に関しても、偶然か、必然かという問題があります。偶然説では、天体衝突などをあげていますが、見方を変えれば天体衝突は、むしろ地球や生命そのものを作った基本的な過程の一つで、繰り返し起きた地球システムの応答メカニズムです。また生命の誕生が偶然でないとする、人間原理という考え方もあります。宇宙を成立させた物理定数によって、生命が必然的に誕生したとする「宇宙論」です。歴史的にも生命の自然発生説がありましたが、パスツールの微生物発見で否定され、あらためて地球上での生命の誕生を追及する実験が行われました。有名なスタンリー・ミラーの実験などです。
これは生命誕生の前段階にあたる「化学進化」ですが、ここでまた「生命とは何か」という問題が出てきました。ウイルスの存在です。ウイルスが生物かどうか、まだ議論が分かれているのです。DNAもRNAも持っていて、自分では分裂できないのに、他の生物の細胞にDNAを入れて、核の中で複製させ、タンパク質を作らせるのです。これは「化学進化」そのものといえます。極限環境でも住み着き、そこの生物が感染していることもわかりました。生物誕生の根源に深く関わっているのです。また海中のプランクトンにも感染し、地球の炭素循環に影響して雲の生成まで関わっているので、ウイルスは地球環境をも動かしているのです。本書は、地球生物学の最先端を伝えて刺激的でした。「了」

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