「なぜ遺伝子組み換え作物に反対なのか」 J・テスタール著2014年10月20日 吉澤有介

   著者のテスタールは、フランスにおける生殖医療の第一人者で、分子生物学、遺伝子工学の権威であり、遺伝子組み換え技術の専門家です。本書は、フランスで最も権威のある国立科学研究センターから2012年に出版されました。欧州からの厳しい警告です。

 遺伝子組み換え生物(GMO)は、大きく三つの性格に分けることができます。

 一つ目は、バイオリアクター(閉じたインキュベーター)で培養されるGMOで、酵母やバクテリア、さらには多細胞の生物から隔離された細胞です。医療や産業の目的にかなう分子を合成して、医薬品開発などに効果的で、人類に大きな貢献をしてきました。

 二つ目は、研究室が利用する動植物からなるGMOです。たとえば遺伝子組み換えモルモットは、機能検査のために開発され、治療や検査に役立っています。この二つのタイプは、外部の生物とは隔離された環境にあって実験の効率を高め、科学と医学の研究に大いに貢献してきました。これからも人類の幸福に役立ってゆくことでしょう。

 しかし三つ目が問題なのです。遺伝子組み換え作物をはじめ、成長スピードを速める家畜などですが、これらの生物が人間社会に及ぼす影響は、現在もなおきちんと評価されていません。この分野で利益を追い求めるバイオビジネス産業は、先の二つのイメージを巧みに利用して、遺伝子科学の進歩というイデオロギーをもとに、遺伝子組み換え作物(GM)を強引に開発販売して莫大な利益を上げてきたのです。そのロビー活動は、メデアを抱き込み、公正であるべき各国の食品安全審査機関 にまで大きな影響力を与えています。

 その中で、2012年9月、フランスのカーン大学のセラリーニが、遺伝子組み換えトウモロコシで飼育した200匹のラットを、2年間にわたって観察した結果を発表しました。定期的に採血や検尿が実施され、各種臓器の分析も行った結果、通常のトウモロコシを餌にしたラットに比べて、メスのラットに早期の腫瘍、オスのラットには腎臓と肝臓の障害を確認したのです。このGMトウモロコシには、除草剤としてラウンドアップが使用されていて、その毒性が作物に相乗効果をもたらしたと見られます。いずれもモンサント社製でした。

 この発表は「セラリーニ事件」として、大きな反響を呼びました。同時にバイオ産業側からの批判が集中したのです。実験規模が小さく信頼性がないと。そう言いながらも自らは実験でなく、ただ成分は機械論の視点から安全性に疑問はないと主張しました。一般大衆も、すべてのイノベーションは進歩をもたらすという信仰に感化されています。遺伝子工学が万能だというイデオロギーは極めて根強い。しかし暴利を得たバイオ企業の研究者たちは、高度な専門知識の持ち主であっても、必ずしも高度な常識があるとは限りません。新たな科学をつくることに目がくらんで、間違った道に進んでしまったのです。

GM作物やGM動物に予期しない変質による病変が続出しています。しかも周辺の生物との交雑も進んで、生態系を悪化させました。その影響は不可逆的で制御はできません。
 しかし幸いにも遺伝学の基礎研究は続いています。GM生物の創造を司る基礎的な欠陥が、次第に明らかになってきました。利益優先の戦略を暴露するときが来たのです。「了」 

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