「海はどうしてできたのか」藤岡換太郎著 2014年1月22日 吉澤有介

  ― 壮大なスケールの地球進化史 ―

 これは先に紹介した「山はどうしてできるのか」の続編です。宇宙で唯一知られる「液体の水」をもつ海は、さながら「地獄絵図」の原始地球で、いくつもの「幸運」の末に産声をあげました。しかしそれはわたしたちにとっては、猛毒物質に満ちたおそるべき海だったのです。原始海洋が想像を絶する数々の大事件を経て「母なる海」へと変容するまでの過程から、46億年の地球進化史を読み解き、将来、海が消えるシナリオまで迫ります。

 本書では、このおよそ46億年という気の遠くなるような長い時間に及ぶ海の進化史を感覚的に捉えるために、「地球カレンダー」という物差しを使って記述しています。これは地球の始まりを「11日」、現在を「1231日」の大晦日という1年間で表すのです。このカレンダーを使うと、1日は約1260万年、1秒は約146年になるので、いまから1秒前は江戸時代の末期、「大政奉還」の頃になります。海の事件史を並べてみましょう。

11日  太陽系に地球が誕生する。隕石の雨で最初のマグマの海ができる。

112日  月ができる。火星くらいの星が衝突してマグマが飛び出したらしい。

29日  海洋が誕生する。隕石やマグマの水分が冷えて豪雨となって満ち溢れた。

225日  生命が誕生した。酸素のない高温の海底で古細菌?が発生したらしい。

531日  酸素が発生する。シアノバクテリアの光合成で、大気が変わった。

83日  超大陸出現。プレート運動が始まり、オゾン層ができて生物が上陸した。

116日  全地球が氷結した。CO2の減少のせいか。生物に激変が起こる。

1212日 海洋無酸素事件。「バンゲア」ができ、史上最大の生物絶滅がおきる。

1226日 ユカタン半島に巨大隕石衝突。恐竜絶滅する。哺乳類が生き残る。

1227日 最後の大変動。白亜紀の大海進が起きる。インド亜大陸が衝突する。

1231日 1130分、地中海干上がる。2040分、氷河期に突入する。

       2337分、ホモサピエンス登場。残り2秒で産業革命始まる。

ざっとこんな具合でした。ここで著者は海を一つの鍋に見立てています。まず入るものとしては、火山活動によるもの、風や雨、河川が運んでくるものなどです。出てゆくものとしては、表面からの蒸発と、海底に沈み込むプレートでマントルまで運ばれるものがあります。また鍋底の海底には、巨大な海嶺があって地球内部との間で体温調節機能をはたしています。海山と海台も地下深くからのマグマからさまざまな物質を吐き出しています。

 日本付近に多い海溝では、海底にあった堆積物や水をプレートが地球の内部に引きずりこんでいます。その水は地下のマントルの温度を下げ、融点を低下させるので、周辺の橄欖岩を融解し、マグマを発生させ火山活動で地表に噴出して、水は循環しているのです。
 しかしこれは幸運に恵まれたごく際どいバランスによっています。いま地球の内部は冷えつつあるようなのです。放射性元素が半減期にしたがって崩壊熱は減少しています。海が消滅するという戦慄すべきシナリオが、将来現実のものになる可能性は小さくありません。いずれすべての海水が地下深くに没してしまう日がくることでしょう。「了」

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