「遺伝子組み換え食品の真実」アンデイ・リーズ著2014年1月20日吉澤有介

   これは恐ろしい本でした。著者は英国の環境運動家で、1996年に米国で始まった商業生産による遺伝子組み換え食品が、あらゆる生物や人類にとって、極めて深刻な事態を招いているというのです。その核心部分を抜書きしてお届けしましょう。

 なぜ遺伝子組み換え作物が普及したのでしょうか。推進派の人々は、多くのメリットをアピールしました。たとえば「遺伝子組み換えは、伝統的な品種改良の延長であり、より精密で安全な技術である」、「除草剤も殺虫剤も少なくてすみ、栽培管理の手間が省け、収穫も増えるので農家の利益が増える」などです。ところが10年もたたないうちに、それが破綻したことが明らかになりました。

 農薬を使っても雑草や害虫を駆除できなくなり、収穫量も減少するという悪夢のような事態になったのです。しかしこれは最新の分子生物学からみたら当然のことでした。「遺伝子情報は独立した単位で、無縁な生物との間でも転位させることができる」といった彼らの認識は、すでに時代遅れだったのです。

 DNAの中の遺伝子は、適当に位置しているのではなく、高度に構造化され、集合体として相互に影響しあいながら機能しています。したがって異種の遺伝子を勝手に転位させれば、その機能が狂うことは当然なのです。突然変異が多発していることもわかりました。
 遺伝子組み換えはどのように行われているのでしょうか。例をあげれば、魚の遺伝子をトマトに組み込んだり、ウィルスの遺伝子を穀物に組み込んだりしています。このようにある種の遺伝子が別の種に転位することは、自然界では起こりえません。遺伝子組み換えと自然交配とは全くの別物なのです。そこではどのような変異が起こるか予測できません。ところが驚くことに人体に対する安全確認は、殆ど行われていないのだそうです。

 ただわかっていることは、米国で食品由来の疾病が過去7年間で2倍に増えました。この時期は、遺伝子組み換え作物の商品化と一致しています。英国でも大豆アレルギーが5割増え、ロシアでも2003年までの3年間でアレルギー症状が3倍になりました。しかしこうした症状が遺伝子組み換え食品によるかは不明です。誰も原因を調査していないからです。リスクは無限に存在するのに、野放しの人体実験が堂々と行われているのです。

 しかしこのような遺伝子組み換えを行っているバイテク企業は、巨大な多国籍企業であり、強力なロビー活動によって政治に深く浸透し、マスコミをも支配して、圧倒的な影響力を発揮しています。モンサント社をはじめとするバイテク企業はもちろん、米国政府も国際機関もあげて遺伝子組み換えの安全性を唱え、巨額な利益を上げてきました。
 その結果、遺伝子組み換え作物によって、遺伝子の種、属、界といった生物の境界を超えた水平転位が続いています。その遺伝子は、近親の一般種との交雑、偶発的な種子や作物の混入などによって拡散し、汚染はすでに制御不可能の状態です。除草剤に耐性を持つスーパー雑草も出現しました。食品に混入したスターリンク事件もあり、Bt毒素も話題になりました。犯してはならない境界線を科学が破ってしまったのです。環境に放出した新たな生命体はもはや回収はできません。
この責任は誰がとるのでしょうか。                                                「了」

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