「グリーン革命」(上)(下) トーマス・フリードマン  日本経済新聞出版社 

  著書の趣旨は、化石燃料依存の経済では早晩行き詰まり、アメリカと世界は、再生可能エネルギーと省エネルギー技術(グリーン)の社会に転換させる(革命を起こす)必要を説いています。
 
(上巻)は、現状までの世界各地における化石燃料依存社会の問題点を克明に描きだし、
(下巻)では、グリーン革命を起こすための処方箋を、筆者の意思を入れて記述している。
上下合わせて600ページになる分量ですので、消化するのに少し時間がいります。

 内容的には、9割方賛同できますが、1割くらいは疑問符が付く点も見受けられます。
筆者は技術系ではないために、技術革新におけるポイントの深堀は出来ていないようです。
また、バイオマスエネルギー利用については、まだ、アメリカでも技術と事業化の模索段階
であるために、表面的な記述にとどまっている感じは否めません。

 しかし、政策的な提言や、市場経済に働きかける制度の提案などは、分析的で鋭く、その
上一般読者にもわかりやすい事例を書いていますので、ベストセラーになる要素を持ってい
ます。
この書は、2008年7月頃までのアメリカの状況を書いていますが、その後、大統領選の争
点にもなり、オバマ大統領はこの書を絶賛した、とされています。
確かに、就任後の自動車燃費規制の強化、前倒しや、再生可能エネルギーへの投資を促
す「グリーンニューディール」と呼ばれる政策を実行に移している、ことに表れています。

「訳者あとがき」では、
 日本は従来、アメリカを未来の成功モデルとみなして模倣するという手法で成長してきた
が、エネルギーや環境の分野では先進技術を持っている日本が主導して、みずから未来
の成功モデルになれる可能性がある。
本書はそういう確信を深めてくれる。と書いています。

 私の個人的感想では、日本を過大評価しているように思えます。特にバイオマスエネル
ギー利用分野では、はるか後方を走っている(いや走りもしないでいる)日本の姿が見え
ます。日本の環境問題、エネルギー問題を研究している人たちは、この書の内容を十分
に吸収して、その上での議論を進めていると思いますが、アメリカの状況をそのまま、日
本に持ち込むことはない様に、して行く必要があると感じました。

(渡辺 記)

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