グリーン革命 トーマス・フリードマン 日経新聞 2009年3月

著者はニューヨークタイムズ社の記者でジャーナリストである。
さきに紹介した大ベストセラー「フラット化する世界」に続いて本書が出ると、また
また大きな話題になったので、すでに読んだ方も多いことだろう。
この時期、ちょうどオバマ大統領が登場して「グリーン・ニューデイール」政策を掲
げたので、更に注目を集めたことから、発売直後に新刊を斜めに目を通してはいたが、
今回あらためて通読したので、遅まきながらごく簡単にメモしてみた。
 

本書では、温暖化、フラット化、人口過密化する世界で、急激に深刻化している五
つの重要な課題に問題を絞っている。
(1) 供給が細りつつあるエネルギーや天然資源への需要の増大
(2)産油国と石油独裁者への莫大な富の集中
(3)破壊的な天候異変
(4)電力を持つものと持たざるものとを二分して起きているエネルギー貧困
(5)動植物が記録的な速さで絶滅し、生物多様性の破壊が急速に進んでいること
である。
これらの問題を解決するには、新しいツール、新しいインフラ、新しい思考法、世
界の人々と共同作業する新しいやり方を必要とする。

私たちは歴史的転換点に立っているのだ。
「エネルギー気候紀元」と呼ぼう。

 まずは人口問題だ。著者が生まれた1953年には地球の全人口は28億8千人あまりだ
ったが、それから
100年後の2053年には90億人を超えるという。
ただ3
倍になるだけではない。アメリカ人並みの生活をして資源を浪費する人口が急
増するのである。
また石油に依存し続けるアメリカは、中東の産油国、石油独裁者に莫大な力を贈与す
る結果になっている。
世界のエネルギー格差は拡大し、そこに情報のフラット化が重なったから、これは深
刻な政治的な爆弾となる恐れがあるのだ。

 それぞれの問題には、著者が実際に出会った多くの具体的な事例が挙げられていて、
さすがに説得力がある。
そしてグリーン革命こそが生き残る唯一の道であり、新しい国力の源泉となるとして、
そのためにあらゆる施策で技術のイノベーションを引き出すよう求めている。

新エネルギーについても期待しているが、ここでは原発の話題は少ない。
また姿勢は消極的である。グリーンは退屈なほど地味な努力の積み重ねだが、それが
大切なのだという。
アメリカの場合でみても、もう汚いガスを出す化石エネルギーを使い続けることはで
きないのだ。
そのためには炭素税などが一番わかりやすいだろう。
キャップ&トレードはまやかしではないか。
複雑である上に、痛みを隠し課税もしないふりをしている。
わかりやすい制度だけがイノベーションを加速するのだ。

 またサウジの故ヤマニ石油相の言葉を引いている。
「石器時代が終わったのは石がなくなったからではない」、最初は青銅、ついで鉄と
いうように、石に代わるツールを人間が発見したから、石器時代が終わったのだと。
石油の時代も新エネルギーが生まれたら、それまでなのだとヤマニは見抜いていた。
彼の悪夢を実現することこそが新しい世界を拓くのだ。

 フリードマンの壮大な文明論は、精緻な観察と深い洞察から生まれている。
      
2011104日 吉澤有介                  「了」

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