第6の波 ジェームズ・B・ムーデイー 徳間書店

環境・資源ビジネス革命と次なる大市場  著者 ジェームズ・B・ムーデイー&ビアンカ・ノグレーデイー著

人類は第一次産業革命以来、これまで5つの波を経験してきました。
現在はその第5の波、すなわち「情報・通信技術」のただ中にあります。
そこで著者らはまずこれまでの「波」の構造を分析し、そこにどのようなチャンスが
生まれたかを検証して、そこから次なる「第6の波」を予測しようと試みています。
第一次産業革命が始まったころ、マルサスは技術進歩のペースは人口増加のペー
スに決して追いつけないと予測しました。つまり技術が進歩しても増加した人口の食
い扶持に消えてしまい、その結果人類はいつまでも飢餓と疫病から逃れられないとい
うのです。幸いなことにその予測は的中しなかった。
多くの人々は生活水準を大幅に向上させたのです。
しかしまだかなりの人々は取り残されたままですし、これから予想される
90億人の世
界を考えると、マルサスの不吉な予言の現実味は消えていません。
地球資源の有限性が明らかになってきたからです。
果たしてその打開策はあるのでしょうか。

I=PATという関係式があります。
人類が環境に及ぼす影響(
I)は、人口(P)と豊かさ(A)と技術(T)の積に等しい。
だから人口と豊かさが増せば、環境や天然資源に深刻な影響が生じます。
しかし過去のイノベーションの波を見ると、技術の潜在性を過小評価すべきでない。
とくに資源効率性を核とする第6の波の技術が展開されるなら、この難題も解決す
るかも知れません。
これからの世界経済のトレンドは、間違いなく環境が中心になってくるでしょう。
かってドラッカーは「未来を予測する最善の方法は、自分の手で創ってしまうことで
ある」と述べました。
著者らはこれを信じて、一刻も早い行動をと呼びかけています。
第5の波に生まれた若者たちを、デジタル・ネイテブと呼ぶなら、第6の波に生
まれる彼らはエコ・ネイテブとなるはずです。
資源や環境中心の新世界をたやすく理解できることでしょう。
彼らの生きる世界は、最初から有限の世界だからです。
すべてのモノに価値があり、ムダなものは一つもない。
自然破壊に向かう流れはゆっくりと反転するでしょう。
人々は有機体の一部としての性格を強め、自然との無益な闘いにようやく終止符を打
ち、母なる大自然の英知と指導と示唆を受け入れるようになることでしょう。
資源が希少にになればなるほど、ビジネス界と経済界の基礎は、商品から離れて
サービスに近づいてゆきます。

第6の波では、消費する生産物と使用する生産物の違いが核心となるのです。
消費するものは
100%リサイクルする。使用する生産物は将来的にすべて商品からサ
ービスに移行してゆきます。その具体例には事欠きません。
 エネルギーについては分散型インフラが基調になるでしょう。
一つのイメージとして、ある農場の住宅では安らぎのための薪ストーブが燃え、給湯
にはヒートポンプと太陽熱温水器が、電気には風力発電機と太陽光パネルと近くの小
川の水車、それに調整用の蓄電システムといった具合です。
風力の利用としては凧式発電システムもあります。
これは場所をほとんどとりません。
グローバルな事業とローカルな嗜好を組み合わせるグローカリゼーションの流れがお
きるでしょう。
商品開発で迷ったら自然を見ることです。
生物には限りないヒントがあります。
南極ウニの驚異的エネルギー効率性、野生のゴボウの実のフックから開発されたマジ
ックテープ、サメの皮膚から生まれた高速水着や船体へのフジツボ類付着防止法、尾
びれの運動による潮力発電などの興味深い研究もあります。
ジンバブエの大草原に点在するシロアリ塚は、外気温が激しく変動しても、塚の内部
の温度は一定に保つ驚くべき機能を持っている建築でした。
未来の都市計画のヒントになっているそうです。
この手法は、自然によってインスパイアされたイノベーションとして、バイオミミク
リーと呼ばれています。自然は廃棄物の全く出ない、理想的な持続可能モデルなので
す。

自然の各システムに対する理解は、「産業生態学」という全く新しい学問分野
を生み出しました。産業生態学の視点で見ると、都市も巨大な生物体に過ぎません。
街の鼓動という表現もあります。
都市が独自の生態系を持っていることを認めて、初めてその複雑性も正しく理解で
きるのです。自然という深遠な天才の前には、人間はただの未熟ものに過ぎないと
いう認識を持つことです。
人類は「マッチを持った幼児」の段階をようやく脱しようとしていると見る社会学
者もいます。
6の波に包み込まれた世界は、今よりもはるかに自然の姿を見せることでしょう。

著者はオーストラリアの新進気鋭の経済学者です。
「第6の波」といえば、アルビン・トフラーの「第3の波」を連想しますが、本書
の「波」は、コンドラチェフとシュンペーターのいう
50年から60年にわたる長周期
のイノベーションの波の概念を指しています。

        記 201183日 吉澤有介

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