初夏の伊豆ケ岳    2010,5,25  吉澤有介

西武線小さな山旅(その3)

 伊豆ケ岳は、正丸峠の南に続く稜線にある標高851mの岩峰です。
奥武蔵の銀座通りといわれるほどの人気があるので、このシリーズで欠かすことはできません。
広葉樹が美しい山ですので5月はじめの新緑を楽しむつもりでしたが、お天気と日程がなかなか合わずモタモタしているうちに、あたりはもうすっかり初夏の気配になっています雨上がりの一日、久しぶりの山行きの仕度に手間取って、正丸駅に下りたのはもう11時過ぎでした。
しばらくは大倉沢の美しい流れに沿って車道を歩きますが、この里山はさまざまな草花で一杯です。
どの家の周りも思い思いに花ばなで競っているようでした。

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やがて正丸峠への分岐に着きます。ガイドブックでは、ここから旧正丸峠をめざすことになっていますが、それはおすすめできません。山道は暗い植林ばかりで、峠は派手な茶店に占有されています。ここは左の大倉沢道が正解でしょう。沢からの風が涼しく、マイナスイオンが溢れている感じで、魅力的な小滝が続いているのでつい沢登りに入りたくなるところですが、ここは村の水源になっているので遠慮しなければなりません。途中で名栗元気プラザへの入り口があります。
伊豆ケ岳への一番やさしくて美しいおすすめルートですが、今回ここは帰りにとっておくことにして、なお沢の奥を目指しました。

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辺りはスギの植林で一応間伐はしてありましたが、それでも何か元気がないようなのです。
土壌の栄養が不足なのでしょうか。
切り捨てたままのスギは苔むして、
CO2の発生源になっているように見えました。

やがて沢の流れも細くなって水源が近いことを知ります。
次第に広葉樹の自然林が増えてきました。
実はここからがこのルートの最大の難所で、
100mあまりの急斜面を一気に直登します。
木の根につかまりながらの登攀になりますが、手を使う登りは意外に楽なのですね。
遠いご先祖の樹上生活の感覚が蘇るのでしょうか。
昨日まで雨でしたから足場はよくありません。
下りだったら滑ってたいへんな苦労を強いられるところです。

izugatake5_edited.JPGここさえ乗り切ったらもう尾根道はすぐです。
自然林の間から西吾野の関八州見晴らし台も望めます。
ただここまで登ってもまだスギの人工林があるのですね。
当然のように全く放置されて荒れ放題です。
もしこれをバイオマスとして搬出するなら、どのような形でやるかと考えながら歩くと、
K式集材システムの応用問題としてちょうど良いアタマの体操になります。

 

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この人工林を抜けると、一転して右のように広葉樹の豊かな自然林が展開しました。
男坂の入り口です。
岩まじりの急坂で一部鎖場もありますが、落石事故が多いために絶対におすすめできません。
ベンチがあったので一休みしていると、賑やかな声がして
100人あまりの小学生が先生に引率されて、一般ルートの女坂を下ってきました。そういえば本日ヒトに会ったのははじめてだったのですね。
元気な子供たちに聞いてみると5年生だそうです。目の前をまるで飛ぶように下りてゆきました。
狭い山道ですれ違わなくて幸いでしたね。 再び静まり返った女坂の新道をゆっくりひと登りすると、そこがお馴染みの頂上でした。
すぐ西側には山伏峠の向こうに武川岳(
1,052m)の雄大な姿が望めます。

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ヤマツツジが満開で、木々の緑はもうかなり濃くなっていましたが、この時期の広葉樹の生長ぶりには驚くばかりです。
山全体が若さでムクムクと盛り上がっているようで、光合成の力に圧倒される思いがしました。
だれもいないはずの岩の陰に、ひとりだけ先客がいて声をかけてきました。
一見して山慣れた
59歳のAさんです。しかしそのお話を聞いて驚きました。
なんと数年前にくも膜下出血で倒れ、3回の手術を経て現在もリハビリ中だというのです。
生還率5割を切り、本復するのは2割にも達しないといいます。
その方がこの伊豆ケ岳に登ってきたのですね。
向こうもこちらのトシを聞いて驚いていましたが、こちらはそれ以上のビックリです。
彼はお先にといいながら、トントンと下ってゆきました。
いろいろな人生があるものだと考えながら、静かな岩の上でゆったりと過ごしてからおもむろに下ることにしました。
帰りは尾根道より安全な西側の巻き道を、豊かな自然林を満喫しながら歩きます。
正丸峠へ向かう途中の小高山から右に下ると木段が続きますが、雨上がりでも滑る心配がありません。
間もなくカメ岩と呼ばれるチャートの大岩が現れます。
このあたり一帯のコナラやシナノキなどの広葉樹は、いつ来ても実に見事です。
私は冬の
2月頃、東京に大雪が降るとよくこの道を訪れますが、膝まで没する新雪の山で、冬山の気分だけでも味わうことができて最高というわけです。

このルートはやがて植林帯になり、双子岩を経てもとの大倉沢の道に出ます。
古いガイドブックにはありませんが、高齢者はここから伊豆ケ岳に往復するのが一番安全で、しかも気分の良いコースなのです。
今回は駅から往復
4時間弱、すこし山らしい?ところだったでしょうか。
ちょうど野鳥たちも夏鳥に交代した時期なので、一日中にぎやかな囀りを聞かせてくれました。「了」

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