「いのちの中にある地球」 デヴイッド・スズキ NHK出版 

ブリテイッシュ・コロンビア大学で行われた最終講義をまとめた
 ものです。
 
 人類はどのような道を辿っていまに至ったのか?
そして彼自身これまでの人生で学び、次世代にぜひ伝えたいことは何なのか?
これはカナダの環境破壊に待ったをかけた生物学者が、地球を継ぐ私たちに
贈る最後の講義である。
テーマは「いのちのつながりについて」あらゆる生命はこの世に誕生して以
来、いつも地球に化学的、物理的反応を引き起こし、岩や山を風化させて土
を生み出し、水循環や光合成によって大気をつくり変えてきた。
 しかしそれには計り知れないほど多くの生物種がかかわり、何億年もかけ
ての大事業であった。
ところが、いまではヒトというたった一つの種が宇宙的時間からみれば一瞬
のうちに地球の生物学的、化学的、物理学的なありようを一変させようとし
ている。
 動植物や微生物の織りなす壮大なつづれ織り、それなしには私たちは生き
ることができない。
太陽エネルギーの恵みを受けて生命は循環している。
しかし年間五万種もの生物を絶滅に追いやっているいま、私たちは自分の生
存基盤である生命の織物を、みずから引き裂いているのだ。
現在地球規模で進んでいる絶滅のカウントダウンは、個々の生物種をおびや
かすだけでなく、生態系全体をも飲み込もうとしている。その中でもっとも
脆いのは食物連鎖の頂点にあるものであり、その生物種といえば人間なのだ。

 人間の脳の驚異的な力が生み出した科学は、自然のある一部分だけに注目
する「還元主義」という強力な方法を取り入れた。
還元主義はひとつの仮定のもとに成り立っている。宇宙とは巨大な機械のよ
うなもので、部品を分解して調べたり、また組み立てなおしたりすることで、
すべての秘密が解明されるとした。
しかし部品のみに注目すると全体像を見失ってしまう。
全体とは部品の寄せ集め以上のもので、個々の特性からは予測のつかない新
しい特性が生まれるのだ。
還元主義には限界があることを知らなければならない。

 適応力にすぐれた人類は、本能的にも生理的にも周囲の環境を熟知し、利
用し、自分たちが棲めるように変えて繁栄してきた。
しかしそれは自然から切り離された別個の存在ではない。
生物圏の一部であり、生物圏を支配する法則に従わなくてはならないのだ。
その知恵をカナダの先住民のハイダ族の長老が教えてくれた。
他者に対してしたことはすべて自分自身にかえってくる。私たちは加害者で
あると同時に被害者でもあるからだ。

 GDPの成長を最優先する経済学は、自然生態系からの生命維持サービスを
無視し続けてきた。有限な生物圏での成長は破滅につながる。世界を新しい
眼で見直さなければならない。
著者は、いまこそ希望ある未来への一歩を踏み出そうと力強く提言している。
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著者は1936年カナダ生まれの日系三世、生物学者、環境運動家、ブリテイッ
シュ・コロンビア大学名誉教授、
CBC(カナダ放送協会)テレビの長寿番組
ネイチャー・オブ・シングズのパーソナリテーとして
30年以上活動し、カナ
ダ人の多くが「デヴィッドを見ながら育った」というほど親しまれている。
近代の科学的合理主義の限界を早くから指摘し、カナダ先住民の英知に環境
問題のヒントを見出して大きな功績をあげた

  2010.122(要約)吉澤有介        「了」

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