「プレートテクニクス入門」木村 学・大木勇人共著 2017年10月21日吉澤有介

-なぜ動くのか?原理から学ぶ地球のからくり- 講談社ブルーbバックス2013年9月刊
プレートテクニクスとは、メデアにもよく登場して私たちにはすでに常識ともなっている言葉ですが、その殆どが断片的な図解などばかりで、実態はなかなか把握できませんでした。本書は、まさにその全体像を中学生にも理解できるよう懇切に示しています。
プレートテクニクスは、およそ100年前のウェーゲナーの「大陸移動説」が始まりでしたが、その後幾多の変遷を経て1960年代に確かめられ、地球科学に一大革命が起こりました。しかし日本の学会では、それ以前からの海底の堆積物が隆起したという「地向斜」理論にとらわれて、1975年ころまではまだ世界から取り残されていました。火山フロントを提唱し、プレートの沈み込みを示す「弧状列島(Island Arcs)」を著わした、著者の恩師でもある東京大学理学部地質学教室の杉村新は、非主流派として50歳まで助手のままだったそうです。それが神戸大学に新設された地球科学教室に、いきなり教授として迎えられて流れが変わりました。それまでにもすでに1929年に岩石の残留磁気の測定から地球磁場の反転を世界で初めて提唱した、日本の地球物理学者の松山基範は海洋底拡大説に貢献し、地震の震源が次第に深くなる分布を、気象庁にいた和達清夫が1927年に発見した和達・ベニオフ面が知られていました。下地は十分あったのです。80年台の初めに、四万十帯の地層がプレートテクニクスの付加作用の結果であることを、堆積物のチャート地層に含まれた放散虫の化石から見事に証明した、非主流派の平朝彦らの報告は世界で有名になりました。これでようやく日本の学会もプレートテクニクスへと大きく転換したのです。
本書ではその地球科学の歴史を追いながら、、最新の学説を実に詳細に解説しています。陸は高く、海底は低いのは、地球表面の軽い岩石がその下の重くて流動性のある岩石に浮いているというアイソスタシーに、地震波の解析による地球内部構造の解明、海洋底に見る残留磁気の縞模様、放射年代測定法による移動速度の算定などで、海洋底拡大が明らかになり、ウェゲナーの大陸移動説は、プレートテクニクスとして再構築されたのです。その立役者はカナダのツゾー・ウィルソンでした。プレートの命名者でもあり、超大陸の分裂、新たな海洋底の誕生、大陸の衝突というウィルソンサイクルを提示しました。それによれば、いずれ海洋底はすべて海溝から沈み込み、太平洋は閉じてアメリカ大陸とユーラシア大陸は衝突し、新たな超大陸が生まれる可能性もあるのです。
地球をつくる岩石の性状も明らかになりました。上部マントルをつくるオリビン(橄欖岩)の結晶構造、そこに含まれる水の働き、硬い表層の地殻リソスフェア、その下にある柔らかいアセノスフェアなどです。橄欖岩の部分融解の仕組みは、ダイアモンドアンビルセルによる実験で確かめました。海洋プレートの沈み込みも単純ではありません。表面の堆積層が剥がされて、陸の地殻に乗りあがる付加作用という複雑な動きをしています。日本列島に見られる島弧の衝突、インド亜大陸の衝突によるヒマラヤ山脈とチベット高原の成立、各種地震の様相などの豊富な図解で、地球科学の最先端に触れた好著でした。「了」

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