「三つの石で地球がわかる」藤岡換太郎著2017年8月24日吉澤有介

-岩石がひもとくこの星のなりたち- 講談社ブルーバックス2017年5月刊
著者は地球科学者で、これまでに「山はどうしてできるのか」、「海はどうしてできたのか」、「川はどうしてできるのか」の連作で、地球の成り立ちを分かりやすく解説してきました。本書はその続編として、岩石からのアプローチを試みています。
地球の誕生には、さまざまな岩石が登場し、それぞれが変化を重ねてきました。岩石は、多くの元素からなる鉱物でできていますが、著者はその複雑な世界を、三つの岩石を知ることで読み解くことができるというのです。まことに明快な切り口を示してくれました。
それは「橄欖岩」、「玄武岩」、「花崗岩」の三つでした。地球の全体積に占める割合は、それぞれ82.3%、1.62%、0.68%で、ほかは鉄などの金属が15.4%ですから、これでほぼ全部なのです。橄欖岩は地下深いマントルをつくり、玄武岩は海洋の地殻、花崗岩は大陸の地殻をつくり、鉄は中心の核を構成しているので実にわかりやすい。地球の岩石は、橄欖岩がまずあって、それが玄武岩へ、次いで花崗岩へと枝分かれしてゆきました。
圧倒的に多い橄欖岩は深い地中にありますが、海底の割れ目などで圧力が低下すると、大量のマグマとして噴出して左右に薄く広がり、冷えて固まると玄武岩に変わります。その玄武岩による海洋底が絶えず拡大してプレートを動かしているのです。玄武岩はときに地上に現れますが、粘性が低いためにさまざまな形を見せてくれます。ハワイの溶岩流や、各地に見られる柱状節理などがありますが、富士山の秀麗な姿は玄武岩によるものです。
大陸の地殻を構成している花崗岩は、私たちの身近にあって、ごくありふれた存在ですが、その成因には多くの謎がありました。玄武岩がいろいろな岩石に変わった最後が花崗岩となったという火成岩説が有力でしたが、地中深くのマントルに、プレートの沈み込みで大量の水が浸入して、ゆっくりと冷えたマグマがゆっくりと上昇して、珪素の多い花崗岩が出来たらしい。その密度は2.7g/cm3で、海洋地殻の玄武岩3.0の上に乗っています。土台にあたる橄欖岩は3.3ですから、この3層構造で地殻が均衡を保っているのです。原始地球は、まず層構造が生まれ、プレートができて移動して沈み込み、その際に水が大循環して島弧を生み、それが衝突、堆積して大陸が誕生したという地球の進化史でした。
さてマントルを構成している橄欖岩は、私たちは直接見ることはほとんどできません。地下70kmから2900kmという深い地中にあるからです。しかしごく稀に地殻の割れ目などから、猛烈な速度で噴出して地表に出ることがあって、日本では北海道のアポイ岳にその露頭があります、東北の早池峰山や尾瀬の至仏山などもそうですが、こちらは蛇紋岩に変わっていました。いずれも固有の高山植物群が育つことで知られています。蛇紋岩は海底にもあって海山をつくっています。それが地球上に生命が誕生する上で、大きな役割を果たしていました。橄欖岩が蛇紋岩に変わるときに、水と反応して水素を発生しますが、その水素を酸化させてエネルギーを得る細菌がいるのです。海底の熱水噴出孔がその場所らしい。いま橄欖岩は、地球内部構造を知るための鍵として、地球物理学で特に注目されています。本書は、石の起源から地球の進化を探る壮大な物語を展開していました。「了」

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