「活断層地震はどこまで予測できるか」遠田晋次著2017年3月5日 吉澤有介

-日本列島で今起きていること-  講談社ブルーパックス2016年12月刊
著者は、東北大学災害科学国際研究所教授です。昨年4月14日、熊本県益城町で震度7、M6,5の熊本地震が発生しました。その翌日に著者は、この地震で布田川断層と日奈久断層に大きな歪が伝播しているので、さらに大きな地震を起こす可能性が高いこと、それは明日かも知れないし、10年後かも知れないとNHKテレビで報告しました。ところがその深夜、さらに大きなM7,3 の地震が実際に起きてしまったのです。被害は後のほうが甚大でした。
本震の28時間後に、その連鎖によってさらに大きな余震が発生したことは、大方の常識を覆しました。しかしここ20年ほどの研究で、これは予想されていたことでした。
これまで3,11の東北地方太平洋沖や、南海トラフで起きる「海溝型地震」のメカニズムはよく知られていますが、活断層で動く「内陸地震」については、最近までよくわかっていなかったのです。兵庫県南部地震や熊本地震は、この直下型の「内陸地震」でした。本書では、この活断層と内陸地震の関係を、最新の研究成果で詳しく追っています。
内陸地震では震源の深さが20kmより浅いのが特徴です。これは「地震発生層」と呼ばれ、地殻を構成する岩石が脆性的に破壊される限界がこの深さなのです。また火山の近くでは小さい活断層が数多く、地震は小規模になります。日本列島では、地質年代の第四紀つまり約200万年前から現在まで動いたと見られる活断層は2000以上あります。その活断層の規模と平均変位速度を調査すると、おおよその地震の規模を予測できるのです。
しかし平均像は読めても、具体的にはまだ調査データの限界や、地震現象そのものの不確実さ、活断層ごとの個性が異なります。本州の中央部を南北に分断する糸魚川~静岡構造線は、東西に引き裂かれてできた正断層が、第四紀後期になって逆に圧縮された活断層です。地震予知の対象として、1980年代から多くの地点でトレンチ調査が行われ、最新の活動が1200年前で、その周期からみて近くM8 を超える地震の恐れがあると公表されていました。まさにそのとおり2014年11月、北端の神城断層で震度6弱の地震が起きたのです。そこで著者らが大出地区で詳しく調査したところ、300年前にも小谷で震度7が、150年前には震度6の大町地震があったことが、トレンチ調査と記録から確認され、活動間隔や規模からこの断層の複雑な個性を知ることになりました。これまでのデータによると、青木湖から南の断層に歪が蓄積され、松本の近くで連鎖的な大地震がありそうなのです。
将来発生する内陸地震を予測するには、活断層の位置、方向、傾斜、長さ、平均変異速度、変異量、活動史などから地震規模と確率を求めてゆきますが、防災の見地からは、どのような揺れが来るかのハザードが問題となります。P波S波の地震波は、表層の柔らかい堆積層を通ると、距離減衰で弱まった地震波が復活して増幅します。東京や大阪の湾岸などでは2倍以上になるのです。遠距離まで伝わる長周期地震動も問題です。連動型大地震もあり、天正・慶長伏見地震の場合は10年間で4回も発生しました。内陸の直下型地震では、突然揺れるので予告は出来ません。斜面崩壊も危険です。詳細は「地震ハザードステーション」で検索できるので、ぜひご覧ください。本書のデータは貴重な資料でした。「了」

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