スイス式「森のひとの育て方」浜田久美子著2015年7月24日吉澤有介

— 生態系を守るプロになる職業教育システム—
著者は、精神科カウンセラーをしているうちに木の力にめざめ、森林をテーマとする著述業に転身しました。現在は長野県伊那に建てた木の家に住んで、山仕事をしながらの暮らしを実践中です。本書では、スイスにおける森林に関する教育と職業のあり方について,現地調査と日本への導入状況を取材して詳しく紹介しています。
日本は、明治時代から主にドイツの林業に学んできました。そのフォレスター制度はよく知られています。2013年からは日本型フォレスターの資格もスタートしました。しかし、実質的には従来からの森林普及指導員とあまり変わらない形になっています。日本では、専門教育機関での現場実技教育がほとんど欠けているために、知識はあっても現場の森林作業員となじめず、実際の森のニーズに対応できないのです。
ところが日本にも意欲的な林業会社がありました。(株)総合農林(本社東京)はOGIグループが所有する山林約1万ヘクタールの管理をするために設立された会社です。その人工林の衰弱に悩んだ佐藤浩行社長は、ドイツなどの各国を視察してスイスの林業に出会いました。その林業は決して良い状況ではありませんが、一時期の衰退から立ち上がろうとして、将来の生態系を考慮しながら、林業界あげてひとづくりに力を入れ、確かな成果をあげつつあったのです。その実情を率直に話してくれたフォレスターのロルフ氏の人柄が決め手になりました。佐藤さんはすぐにスイス式林業の採用を決断し、ロルフ氏を招いてワークショップを開きました。さらにスイスのフォレスター学校から3人のインターンを受け入れ、研修の場を提供して彼らの最新の実技教育に触れることにしたのです。
そこで知ったスイスの林業教育は、徹底した現場主義でした。2校あるフォレスター学校は高等専門学校で、全寮制2年間ですが、ここに入学するためには中卒後、森林作業の職場経験を3年間積み、同時に職業訓練校で必要な技術と知識を学んで、正式な森林作業員(国家資格)となり、さらに2年間実務をしながら定められた基礎講座を受講してパスしなければなりません。プロになってはじめて入学資格が得られるのです。職業専門大学のコースもあって、ここでも林業事業体での実務経験が最低1年を必要とされています。
森林作業員にも継続教育講座が用意され、上級森林作業員の資格が与えられます。進路は相互に乗り入れもでき、ステップを踏めばどんどん可能性と選択肢が拡がるのです。
そのフォレスターは、管理する森林の全体像を把握し、将来の森づくりの目標を定めて作業工程をつくり、森林作業員に実施させるとともに、生産した木材の販売にも関与して山主に利益を還元する役割を担います。ロルフ氏は「森づくりは自然に近づけるほど効率が良く、コストがかからない」と明言しています。経済とエコロジーは両立するのです。
スイスには、フォレスターと森林作業員、山主など森林関係者に、現場を通じて技術と知識を共有するフラットな好ましい関係がありました。ロルフ氏とインターンを受け入れた総合林業の収穫は多大で、ワークショップも毎年開催され、その教育システムは着々と根付いています。待ち望んだ国産材需要の高まりにも、これは嬉しい話でした。「了」

カテゴリー: 林業・農業 パーマリンク