黄砂ーその謎を追う 岩坂泰信 紀伊国屋書店

著者は地球物理学の学者、主として名古屋大学に在職中に行った研究内容を随筆風にまとめた
報告書である。

黄砂は50年ほど前、その粒子が氷結晶の種になって雨を降らせる元を作っているのではないか・・・人工降雨を期待されて研究されていた。
太陽光を散乱、吸収して地球の天候や気温を支配している可能性があるとの考えも。

黄砂の発生地点に近い中国や朝鮮では日本の台風並みの警戒がされており警報が発生された時
には外出禁止令が出ることもある。

アスベストと同様細かい粒子であるため呼吸で肺に入り肺がんなど健康問題が発生する。
ソウル市で黄砂と死亡率の関係を調査している研究者もいる。

日本の上空では黄砂の粒子は数ミクロンの大きさで空中に漂い白っぽく見える。
大気中にはこの他にエアロゾル(aerosol)と呼ばれる様々な固体や液体の微粒子が浮い
ている。

黄砂の発生場所
タクラマカン砂漠やゴビ砂漠が発生場所で低気圧等の強風で砂塵が巻き上げられ偏西風
にのって東に運ばれる。

これを防ごうと都市部では植林の対策がある。しかし山からの融雪水が地下水脈を作っ
て植物を育てている地帯なので、ある場所で水を使ってしまうと周辺の植生を破壊する
可能性がある。
慎重な調査検討の上環境を壊さないように実施する必要があり日本のように簡単ではない。

大気を浮遊する黄砂
人工衛星の観測で数千キロを雲になって移動している姿をキャッチ(1979)したのが確
認の最初である。
魚の研究をしているアメリカの海洋学者が黄砂観測ネットワークを作り、長距離輸送を
確認した。これらにより軽い黄砂は最長大西洋まで達していることが分かった。

上空を走る黄砂
上空に向けて放ったレーザー光が粒子に当たって戻る時間を測定して高度を測る(ライ
ダー方式)ことで黄砂が流れる高さの分布が分かった。

その結果2つの違う流れがあることが判明した。
(1)1~2km上空を上下方向に混合しながら動く(接地混合層)主として黄土高原
からやってくるもの。

(2)はるかその上、上空6kmくらい(自由な対流圏)を流れるタクラマカン砂漠発
生のもの。粒子がこまかくずっと遠く米西海岸やアラスカまで達する。

魚の成長とプランクトン
魚の栄養塩は海に流れ込む河川が運んでいるが、沿岸から離れた海域の栄養は誰が運ん
でいるか分からなかった。

大気から落下するエアロゾル、中でも黄砂が微生物にとって大切な物質であることが海
洋学者の研究で分かってきた。

海中のナトリウム濃度は変化しないがアルミナの濃度は春先がピークで減り続けて黄砂
と同じ動きを示した。

上空を飛ぶ黄砂を採取して分析すると硫黄化合物が付着していた。
発生地のタクラマカンでは黄砂特有の成分であるAlとCaのみであるが上空でガスを
吸着しS濃度が高くなる。

上空にある燃料等から発生したSO2ミストは太陽光を反射して地球寒冷化効果をもたらす。
同時に黄砂に付着して落下するので酸性雨を緩和する働きをしている。

タクラマカンの砂を巻き上げる力は朝と夕方に発生する山谷風による。
山の斜面は朝早くから太陽光を受けるため麓より気温が高くなる。
この温度差によって上昇流の風が発生する。夕方は逆の風が吹き降ろしてくる。
ここは5~7kmの高山に囲まれているので強風が吹き荒れ盆地はルツボと化す。

アメリカ西岸の海底に黄砂の蓄積されている場所が見つかった。
あんな微細な黄砂が海流に流されずなぜそこに集まっているのかが疑問だった。
海の生物が黄砂を食べ排泄物と一緒に黄砂を海に出した結果であることが分かった。

窒素についても同じ循環が考えられていて研究が進行中である。

 

陸地から離れた場所に鉄分を運ぶ役割をしているのが黄砂であるとの話を知ってから黄砂に興味をもった。この本を見つけ黄砂の悪玉の面だけでなく魚を育てたり汚染物質を上空から引き戻したり大切な役割をしていることが分かった。
               記 福島 巖

カテゴリー: バイオマス, 気候・環境, 自然 パーマリンク

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