「世界農業遺産」 武内和彦著 2014年3月6日 吉澤有介 

  - 注目される日本の里地里山 -

 日本は、、先進国でありながら、伝統的な農業システムを数多く残しています。その代表が「里地・里山」で、都市とも近接しており、消費者が生産者の顔を見ることができるという、世界でも稀な環境を持っているのです。その日本で、五つの地域が現在「世界農業遺産」(GIAHS)に認定され、小規模農業のモデルとして、世界の大きな注目を集めています。

 「世界農業遺産」は、ユネスコの「世界遺産」ほどにはまだ知られていませんが、国連食糧農業機関(FAO)が認定するもので、ユネスコが手つかずのもの、古いものに価値を置くのに対して、GIAHSでは代々引き継がれてきた知恵の遺産を重く見ています。それは、時代の変化や環境の変化を乗り越えて、より良い方向への変化を可能にする、伝統的な知恵の蓄積が「遺産」であるという考え方です。ただ古いだけでなく、持続的な農業を体現している人たちと一体となった、生きているシステムを評価するのです。

 それはFAOが、長らく活動の中心においてきた「緑の革命」への反省から生まれました。「緑の革命」では、「品種改良」と「耕地の拡大」が主体で、一時期は成果を挙げたものの、一方で農地の質の悪化や、地下水の涸渇による砂漠化、土地の荒廃など、地球環境を大きく破壊することになりました。日本はそうした国で生産された穀物を輸入していたのです。

そのため、とくに途上国では近代的な農業よりも、伝統的な小規模農業で付加価値を高めて生活の豊かさを取り戻す、別のモデルが求められました。その認定基準は次の5つです。

 ①食糧生産と生計の維持:過去から将来に向けての生きたシステムであること。

 ②生物多様性と生態系機能の維持:自然の恵みを活かしていること。

 ③知識システムと適応技術:科学的知識だけでなく、その土地の伝統的知恵があるか。

 ④農文化、価値体系と社会的組織:伝統行事や、祭り、地域特有の習慣などがあるか。

 ⑤優れた景観、土地と水資源の管理の特徴:灌漑など土地と水をうまく利用しているか。

 このようにして、途上国向けに「世界農業遺産」の認定がスタートしてみると、実はその最良のモデルが、先進国日本にあったのです。
国連大学のサポートでの再発見でした。
GIAHSでは、先進国は全く念頭になかったので、ここで世界の新しい方向が開けたのです。

 日本では、この認定を受けて国内外の知名度が高まって、作物のブランド力が向上し、そして何よりも地域の農家や住民たちの価値観が変わりました。やる気をなくしかけていた自分たちの農業文化が、世界的な評価を受けたことで、自信と誇りを取り戻したのです。

その5地域を認定順に紹介しましょう。佐渡と能登は先進国で初めての認定でした。

・トキと共生する佐渡の里山:固有の生態系と文化、トキ復活への地域ぐるみの努力に。

・能登の里山、里海:緑の回廊で一体化した農漁村の伝統と文化が色濃く生きている。

・阿蘇の草原の維持と持続的農業:広大なカルデラでの牧畜と農林業の知恵がある。

・静岡の茶草場農法:掛川の茶栽培と製茶の伝統、人力による入会地の茶草場維持に。

・クヌギ林とため池がつなぐ国東半島、宇佐の農林水産循環:シイタケ栽培と宗教文化。
各地域の素晴らしいプレゼンは、世界の関係者に深い感動を与えたそうです。「了」

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