植えない森づくり  大内正伸著   2012年2月6日 福島巌

 新しい林業の姿として管理は自然のルールに任せなさい  木は植えなくても自然に育ってきたものが一番強い。 
戦後行った拡大造林は山をダメにしてしまった  これを救済するのは間伐を徹底的に実施するしかないと主張しています。
 

(1)   日本と欧州の森林生育環境の差
年間の降雨量が決定的に違う。日本の降雨量は1,7001,800mmに対して500700mmに過ぎない。また日照時間や気温の点でも条件に恵まれているので放っておいても木は育つ。西日本の松枯れ跡地が30年経った今、緑あふれる森に復活しているのに誰も注目していない。

(2)   植えすぎたスギ・ヒノキの人工林
大量の人工林と放置林が緑の砂漠となって山の崩壊の危機と住民の暮らしを脅かしている。その崩壊を砂防ダムで食い止めようとするから森と川がズタズタに破壊されているのが現状である。

人工林の特徴は
・モヤシ林になる
・草が育たず根の地盤氏支持力が弱い
・幹枝と根のバランスが悪くて倒壊しやすい
・動物たちのえさができない
植林に使う挿し木苗(クーロン苗)は根の張りが弱く表層崩壊を誘発する要因になっている。
間伐して実生木(実から育てた木)を生かす森づくりを!

(3)   マツ枯れの原因
1970
年代に枯れだした。マツクイ虫が原因と特定された。虫退治に防虫剤を散布したが効果はなかった。元気な木はヤニを出して昆虫が産卵しても育たないのが普通でヤニを出さなくなった木に問題がある。
マツは本来海岸や岩尾根など条件の悪い乾燥地に生育している。燃料革命の変化で林地が放置され、落ち葉等の蓄積で表土が栄養富化したことがマツを弱らせてしまい虫にアッタックされた。

(4)   樹木と菌、キノコの関係
「森とカビ・キノコ」小川真著, 「きのこの下には死体が眠る」吹春俊光 などに詳しく解説されている。
木の根は菌類と共生の関係を構築して安定している。菌糸が根全体を靴下のように覆って(菌根菌)根を保護するので乾燥や寒さに耐えられるようになった。栄養分と水分の吸収は菌が担当し、光合成でできた有機物を木の根からもらうことでキノコと木の関係ができあがっている。この関係が強いのがマツ科、ブナ科、カバノキ科である。
細根が死に根菌がなくなると
「水切れを起こす ― 葉を枯らす - 虫に食われる」
のプロセスで木全体が枯れてしまう。

(5)   木を枯らす原因  栄養富化と酸性雨
山林を管理し落ち葉をなくせばキノコ(マツタケなど)がたくさん採れ元気になる。
もう一つの要因が酸性雨である。地球温暖化で二酸化炭素が増えると同時に硫黄酸化物も増えている。硫酸イオンが樹木に付着すると水分は蒸発するが硫酸は濃縮されてしまう。日本のナラ枯れ現象は日本海側の豪雪地帯から始まっており中国大陸からの越境汚染が原因と考えられている。微生物が安定して育つのはPh6であり土壌の改質には炭と灰が有効である。

(6)   広葉樹と針葉樹
・定期的に落葉 - 腐葉土になる
・スギ・ヒノキに比べ土中に深く根を張る -雨水の吸収良
・切り株から萌芽 - スギ・ヒノキは腐る
・木に優劣があり自然林に育つ - 間伐の必要ない
・多様な昆虫を集める - それを食うクモや鳥、小動物を育てる
森づくりだけなら植木をしない自然復元が最も効率的である。

(7)   自然復元
日本の風土を充分生かすならば植林はしない方が良い  下草刈りが不要
人工林で豊かな表土を維持する方法は単層林にならないように樹種を混在させる。
多種の落ち葉が土壌微生物を増やす - 昆虫が活発に活動(その死骸キトサン=キノコの餌)- 鳥が増える - 糞が肥料となって土壌を改質

(8)   山づくりのグランドデザイン
植えすぎた人工林の場所を実生の自然林の森に戻していく。
奥山・水源地・急斜面には実生の木の復活を。
沢沿いと尾根は自然林のベルトを残す。
これら以外の場所に針葉樹を植えて行く。
このような方針で山林の管理方針を図るべきである。

いままでの常識を疑ってみよう
材の年輪が密なほど高級材か? 
暗い痩せた土地で長年月かけて作った意味は。
構造材の強度を比較すると大きな差は見出せない。
無節材はそれほど高級か?
節の有り無しで売値は極端に違うがどれ程の意味を持っているか?

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