スノーボールアース仮説(地球の全球凍結) 藤田良廣

1.はじめに
今回は温暖化の逆である地球の全球凍結の話が中心です。
地球温暖化が今日の地球の最大の問題であり、その為には二酸化炭素(CO2
を極力減らさなければならないというのが世界的な流れとなっています。
46億年の地球の歴史を振り返ってみると40億年前の地球の大気には酸素
が殆ど含まれていなかったと考えられています。
22億年前頃に酸素濃度が急激に増加したと見られています。
その原因はシアノバクテリアによるという考えが主流です。
25億年前から5.42億年前の原生代は地質学的証拠も多く、現在も研究が進
んでいるがこの時代の初めと終わりに全球凍結(スノーボールアース)が生
じたと考えられています。

 2.スノーボールアース 
    かつては全球凍結はあり得ないと考えられていました。一旦凍結す
れば元には戻れないと言うのがその主な理由であったようです。
しかし1992年にカリフォルニア工科大学のジョセフ・カーシュビング教
授は、スノーボールアース仮説を提唱しました。
全球凍結からの脱出も大気中のCO20.12気圧程度まで増加すれば可能で
あることが明らかになりました。
 本格的にスノーボールアースについて知りたい方は下記の本を読まれるこ
とをお勧めします。
 ◯田近英一「凍った地球―スノーボールアースと生命進化の物語」新潮社
現在明らかになっているスノーボールアイスは、原生代前期の「マクガニ
ン氷河時代」 (23億~22.2億年前)と原生代後期の「スターチアン氷河時
代」(7.3~7億年前)及び「マリノアン氷河時代」(6.5~6.35億年前)で
あると言われています。
 22億年前のマクガニン氷河時代についてはまだ不明確な点が多いのですが
原生代末期の二つの氷河期の凍結に関しては現在の地球上の温暖化―寒冷化
のサイクルが寒冷化に大きく振れたとすれば全球凍結の可能性も考えられま
す。氷河の進展を負のフィードバック作用と正のフィードバック作用とを考
えてみます。
負のフィードバックはシステムの暴走的な挙動を抑制する機能です。
地球の環境が安定なのはこの負のフィードバックの効果(ウォーカ
ー・フィードバック)によると言われています。
例えば火山の噴火により多量のCO2が排出されても地上の珪酸塩鉱物の
風化が作用して急激な大気の炭素増加には繋がらないのです。
 逆に氷河が広がってきた場合には氷は光の殆どを反射して吸収される
エネルギーは少なくなります。
これは正のフィードバックであり氷河の生成をどんどん進める側に作用
します。
氷河がある程度以上に進行すると正のフィードバックが進んで全球凍結
の状態になります。
 

3.スノーボールアースからの回復
   いったん全球凍結になると、大気と海は完全に遮断され大気中の
炭素は海へは供給されない状態となります。従って大気中のCO2濃度
はどんどん上昇の経過をたどることになります。
 前にも述べたように、CO2の圧力が0.12気圧を超えると温暖化
現象により氷が溶けだしスノーボールアースは解除されます。
スノーボールアースの状態の大気温度が約-40℃であったのが、一
転して上昇し最高60℃まで上昇すると予想されています。
最大100℃の温度変化が生じる事態です。
単細胞生物であればこの様な温度の変動に充分耐えられることは分か
っていますが、体の組織が複雑化した多細胞の生物がこれに耐えられ
るはずがないであろうと考えられる。
 スノーボールアースの状態から大気中のCO2濃度が0.12気圧にな
るまではおよそ400万年程度と言われています。
氷が溶け出す時間はおそらく数百年か数千年程度で全ての氷が溶け
てしまうと考えられる。
これは通常の気候変動ではなく明らかに気候ジャンプと呼ぶべき異
常事態の発生です。
最後のスノーボールアースの時には、真核生物である緑藻、紅藻、
褐藻などの藻類の仲間が出現しておりこの大氷河時代を生き抜い
たことがわかっています。
しかし、この様な過酷な状況を如何にして真核生物が生き抜いた
かに付いてはまだよく分かっていません。
化石として残る骨格などがないこれら藻類の生存証拠はなかなか
残存しづらく確証が得られません。
 スノーボールアースの最盛時の海の氷の厚さは1000mと言われ
ていますが一部にはもっと薄い氷が存在した可能性が指摘されて
います。
現在の南極大陸には多くの湖が存在していますがドライバレー
と呼ばれる大変乾燥した地域に見られる湖の氷は予想より遙か
に薄いそうです。
理論的に予想される300mに対して実際は5mしかないそうです。
しかもこの氷の透明度は非常に高く太陽光が湖底まで達して氷
の下で光合成生物が活動しています。原生代末にも同じ様な状
況が生じたとすると、この様な場所に藻類が生育してその子孫
が現在の各種植物の先祖となることは充分に考えられます。
 しかし、―40℃から60℃の世界という極端な条件を生き
ぬいた生物はわずかであり多くの生物種は絶滅をしたと考えら
れる。
化石では確認できない大量絶滅が存在したことは明らかであろ
う。
 これらについての地質学的な様々な進展は、地球の進化の究
明として近年多くの進歩が発表されている。

 4.生物の大進化
   カーシュービンク博士は最初のスノーボールアースの原
因はシアノバクテリアであるという説を唱えている。当時の温
暖化ガスの主役はメタンガスでありシアノバクテリアの活動が
盛んになるとメタンは新しく生成された酸素により酸化されて
温暖化ガスの機能を無くしてしまう。
これ以降は生物による酸素の製造が継続して続くことになりメ
タンは地球温暖化の役割を二酸化炭素に譲り渡すことになる。
しかし地球上の生物の大進化の端緒はシアノバクテリアの活躍
であることは明らかである。

 最後のスノーボールアース・イベントであるマリノアン氷河
時代(6.65~6.35億年前)の直ぐ後の5.8億年前に
エデイアカ
ラ化石生物群の大発生が起こります。この動物群はそのまま後
に繋がるものは無かったもののその後の生物に繋がる基本の形
は殆ど揃っておりこの時期で進化の方向はほぼ出来上がってい
たと考えられている。
 エデイアカラに引き続くカンブリア紀の動物は、今に繋がる
として理解される生物群となって今に繋がっています。化石の
存在で確認される生物の進化の時代はこの辺りから始まるとも
いえるようです。
 大気中の酸素濃度が、約22億年前に急激に増加した後約6億
年前にも急激に増加したことが以前から認識されていたがこ
の酸素の増加が生物の大進化に繋がるのではないかとの考えが
浮かび上がってきている。
地球の環境は今までは自然が(神が)決めていたモノであっ
たが、今は人間の行為が環境を決める時代になろうとしていま
す。我々人間は謙虚に自己の力を見つめて対応を考えるべき時
に直面しているのだと認識しなくてはならないでしょう。

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