「生命とは何か」 長沼 毅著 2014年7月25日吉澤有介

  「死なないやつら」
著者は「生命とは何か」という根源的な問いを追い続けています。
「生物学」を超えた「生命学」です。しかしその答えは簡単ではありません。ノーベル賞物理学者シュレーデンガーは、「生命とは、エネルギーを食べてエントロピー増大の法則に逆らい、構造と情報の秩序を保つシステムである」といいました。生物は炭素化合物ですから、いずれは還元してメタンに、または酸化して二酸化炭素になって安定する。それまでの不安定な状態を続けているのが生命ではないかというのです。しかしなぜそれが地球上で40億年も途絶えることなく続いているのかは、考えてみれば実に不思議なことなのです。

著者は、そのナゾを追って極限環境でも生きている「極限生物」の研究に挑みました。極地、深海、地中、火山、高地などに、さまざまな生物がたくましく生きています。乾燥に強いクマムシはよく知られていますが、ネムリユスリカの幼虫はもっと強く、乾いたまま17年後に生き返ったそうです。しかも放射線に対しても人間の700倍もの耐性がありました。しかしそれ以上に強いのが、微生物たちです。彼らは極限を好んで生きています。超高熱菌は122℃で増殖していました。また海底のタイタニック号の船体を食べている新種のバクテリアも見つかっています。海底火山のチムニーにいた高度好塩菌のハロモナスは、南極大陸の氷の下の岩塩中にも生きていました。極端な環境変動に耐えていたのです。紫外線でDNAが損傷しないバチルス菌は、放射線、高温、低温、塩分、乾燥にも強く、2億5千年前の地下560mの岩塩の中で、生きたまま発見されました。これは長寿の記録です。

「生命」は確かに進化しています。しかしなぜここまで強くなる必要があったのでしょうか。明らかにムダな機能もありますが、新しい進化論では、突然変異には方向性がないといいます。完全にランダムで目的はない。たまたま起こった変異が、環境によって生死を分けるのです。キリンの首が突然長くなったとき、彼はずいぶん苦労したはずです。仲間たちと同じ生き方はできない。自分のカタチに合わせてライフスタイルを変え、高い木の葉を食べることで生き延びることが出来たのでしょう。彼はがんばったのです。
地球上の生物は、すべて突然変異を受け入れて生き方を探り、子孫を残して遺伝子を伝えてきました。しかしシアノバクテリアによる酸素の発生は大事件でした。たまたま多細胞生物が登場して、危機を乗り越えたのです。遺伝子自体も多様であったために、種を超えた協調性による共生進化が起きました。酸素に強いミトコンドリアが細胞内に食い込み、さらにシアノバクテリアが葉緑体となって居座りました。前者が動物に、後者が植物になったのです。また第三の動物?も発見されています。硫黄酸化細菌と共生するチューブワームです。しかし現生の地球上の生物がただ一つの先祖から出たことは、最新の遺伝子研究で明らかになっています。その生命はどこからきたのでしょうか。地球上の原始のスープでは確率が低過ぎる。岩石の表面代謝説も出てきました。海底火山の熱水噴出孔の環境も有力で、土星の衛星エンケラドウスにも同じような火山が見つかりましたが、それは何と彗星と同じ成分でした。著者は、生命が彗星起源ではないかと考えています。「了」

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