英国の環状緑地帯の考察 2014年6月29日 荒川英敏

ロンドン便り その41 

グリーンベルトとは都市の周りを包み込んでいる、幅1020kmの環状緑地帯のことです。

実際には、森や林、牧草地、農地、公園や芝生のスポーツグランドやキャンプ地等のレクレーショングランドが含まれています。

一般的に、都市は中心部から伸びる道路に沿って、道路の両側から住宅や商業施設が建ち始め都市は膨張します。この道路に沿って膨張することをRibbon Development(帯状発展)と言われています。これをそのまま放置すると際限なく発展する可能性があるのでどこかで、歯止めをかけなければなりません。それがグリーンベルトなのです。これによって、恒久的に開けた土地を維持することができ、都市のスプロール(無秩序な発展)を制御できるのです。 

グリーンベルトが最初に設定されたのが、1580年、エリザベス女王一世の時代のことで、当時のロンドン周辺を取り囲むように、3マイル(約5km)幅のグリーンベルトが設定されました。これは、当時恐れられていたペスト等の疫病の蔓延を防ぐことが目的と言われていました。その後、約3世紀の間にロンドンは膨張しビクトリア女王の時代には世界最大の都市となっていました。

近代になって、グリーンベルトの目的は、Campaign to Protect Rural England (CPRE)(イングランドの農村を守ろう)
キャンペーンによって、イングランドの農村の環境保護が叫ばれ、更にグリーンベルトが急速な都市のスプロールを防ぎ結果として都市部と農村部の住民の生活の質を向上させる有効な方法であるとの認識が広まりました。そして英国で最初のロンドン首都圏グリーンベルトが、
1935年に大ロンドン地域計画委員会によって政府に提案されました。その後、第二次世界大戦を経て1947年に都市·農村計画法が成立し、ロンドン首都圏グリーンベルトが設定されたのです。これを機会に、ロンドン以外の都市に於いても、グリーンベルトが設定されました。

1955年に、グリーンベルトの正式な指定を受けた地域は、イングランド地域では陸地面積の13%、北アイルランド地域では16%、スコットランド地域では2%、ウエールズ地域では8%となっており、約40の都市が指定されました。

英国の主要なグリーンベルト都市圏は、イングランド地域は、ロンドン首都圏、バーミンガム都市圏、北アイルランド地域はベルファースト都市圏、スコットランド地域はエジンバラ都市圏、ウエールズ地域はカーデイフ都市圏となっています。 

     図1 イングランド地域の主要グリーンベルト都市圏 (Webより)   

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            様々なグリーンベルトの風景(Webより)

グリーンベルトの利点は;-

・都市のスプロール(無秩序な発展)を抑制できる

・森や林の自然環境や野生植物や動物の保全ができる

・グリーンベルト域内は一切の建築物は許可されないので(例外は、農業用の肥料サイトや農機具等の置場に付随する建物)都市部と農村部の物理的な空間距離が、大気汚染を改善しオープンスペースでのスポーツやレクレーション、野外教育の機会を提供できる。

・グリーンベルト周辺の小さな町村の都市からの合併吸収を阻止し、小さな町村の歴史的にユニークなキャラクターを維持することができる。

・グリーンベルトに囲まれた都市は、都市内での土地の有効利用を余儀なくされる 

一方、グリーンベルトの懸念される問題は;-、

・域内にある大規模農地に使用される化学肥料や農薬は、必ずしも安全な環境を提供しているとは言い難い

・域内を通過する車の増加による騒音と排気ガスでの環境悪化の懸念がある

であります。 

この様な状況の中で、自治体からデベロッパーを巻き込んだグリーンベルト域内での開発計画が提案された場合、National Planning Policy Framework(NPPF) 国家計画政策枠組の委員会によって審査されます。 

しかし、グリーンベルト政策が全面的支持されているわけでもなく、「グリーンベルトは都市の発展を阻害している」と発言する評論家やデベロッパー等の少数の反グリーンベルト派がいるのも事実です。彼らの言い分は、英国は人口増傾向にあり都市化はますます進み、増加する次世代の住宅の確保と言う困難に直面するのは明らかであり、国は、全面的ではないがグリーンベルトの都市部との境界線付近の開発を認めるべきだと言うものです。 

確かに英国の人口は増加傾向にあります。1970年の人口5600万人が2014年には6400万人と44年の間に、800万人増加しています。ロンドンの人口も1970年の720万人が、2014年には830万人と、ピークだった1951年当時の851万には及びませんが、44年間に120万人も増加したことになります。 

これは、移民の増加と、国の様々な出産や子育て支援政策が功を奏しているものと思われます。20145月の国立統計局の発表ではロンドンの人口は15年後の2029年には1000万人を超えるだろうと予想されています。参考までに、英独日の1980年から2013年までの人口推移の図2をご覧ください。 

          図2 英国・ドイツ・日本の人口の推移 

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出所:
IMF-World Economic Outlook Database 

英国のグリーンベルト政策は、今日までロンドンの人口増に対してのスプロールを見事に抑制していますが、予想される更なる人口増に対する住宅の絶対量の不足にどの様に対応するか注目したいと思います。翻って、東京五輪前後から急激に膨張した東京にグリーンベルト政策が適用されていれば、スプロールが抑制され、もう少し緑豊かな住み良い東京になっていたかもしれませんね。(了)

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