「山はどうしてできるのか」藤岡換太郎著 2013年11月28日 吉澤有介

  ダイナミックな地球科学入門 講談社ブルーバックス

 東アフリカに誕生した人類が火を噴く山を目にして以来、謎であり続けた山のなりたちを解明する端緒となったウェーゲナーの大陸移動説が登場してから、2012年でちょうど100年になります。ウェーゲナー自身は、大陸移動に確信をもちながらも、そのもとになるエネルギーを発見できず、証拠探しに訪れたグリーンランドで、50歳の誕生日に心臓発作で亡くなってしまいました。大陸移動説は認めらないまま、忘れられていったのです。

 しかしその後、地球物理学では、マントルが対流して流動していることがわかり、さらに地磁気の逆転が発見されました。世界各地の地質時代ごとの磁北極の移動を追ってゆくと、その軌跡がかってウェーゲナーが唱えた大陸移動の方向にぴったりと一致し、ここに大陸移動説が劇的な復活を遂げたのです。それは1950年代のことでした。また海洋底の研究も活発になり、熱水系による海洋底の拡大が地震学者たちのプレートテクトニクスの発見につながりました。90年代には、地震波により地球深部の動きを解明するブルームテクトニクス説が名古屋大学から提唱されて、現在は学界のほぼ定説となりつつあります。

 山の成因は、このプレートとブルームの動きで、あるときには断層運動を起こし、あるときは大陸が衝突、さらに堆積した付加体を形成し、火山活動に結びつくとともに花崗岩マグマをつくり、蛇紋岩や石灰石を隆起させるというメカニズムであることが明らかになりました。すべてがプレートとブルームで説明できるようになったのです。大陸の衝突では、インド亜大陸によるヒマラヤ山脈の形成がよく知られていますが、一番新しい例としては丹沢山地や、日高山脈があります。また六甲山は断層でできた山でした。

 日本列島はその地殻変動がきわめて活発な地域なのです。「板(プレート)没する国」として特徴的な島弧を形成しました。地政学的には「アジアの防波堤」ともいえます。この島弧は深い海溝を伴い、その陸地側に火山ができます。プレートが沈みこむときに大量の水分を地球内部に持ち込み、マントルからマグマを発生させ、そのマグマが地表に出て火山になるのです。ある間隔で海溝に平行して列状に並ぶので、火山フロントと呼ばれます。東北地方では奥羽山脈がそうですが、同じことが深さ170kmでも起こり、もう一つの火山フロントを形成します。鳥海山などがこれに当たります。日本列島では4つのプレートがひしめき合うために、この島弧~海溝系が5つもできているのです。北から千島、東北、伊豆・小笠原、西南日本、そして琉球弧で、本書ではその構造が詳しく語られています。それぞれの板の沈む角度も違います。またこの島弧には、その内側に「背弧海盆」という小さな海をつくります。ベーリング海、オホーツク海、日本海、南シナ海などです。
 こうして現在の地形ができたのですが、山の高さには限りがあります。なぜかといえば隆起した山は絶え間なく削り取られてゆくからです。ヒマラヤから削られた礫や砂は、ベンガル湾に厚く堆積しています。富士山や日本アルプスからも富士川で駿河湾に、さらに南海トラフに運ばれて堆積し、付加物になってまた陸地に押し上げられます。
地形は常に生成と消滅を繰り返して、まさに仏教の輪廻の思想にあるように動いているのです。「了」

カテゴリー: 自然 パーマリンク