自然農法「わら一本の革命」 福岡正信著 春秋社

 有機農法については沢山の本が出版されている。その中から徹底的に自然農法を追求した福岡さんの方法を紹介します。農業機械や農薬、肥料などがが売れなくなるため、いろいろな反対もあって広まってはいないが自然に最もやさしい農業だと思います(福島 巌)。 税関で植物病理の検査官をしていた青年がある時、もっと楽に作物を作れるはずと思い当たり、故郷の四国に戻って百姓生活に没頭した。そして科学農法に挑戦し、自分の考えに即した自然農法を35年間にわたって追及した。目標は人間の仕事を限界まで減らし、自然の営みを活かした形で米や麦を生産することである。高度な薬や医療技術が必要になるのは病気になるからであって、生活環境を改善し、病気にかからない人間にとっては必要の無いこと。これと同じで、虫やバクテリアが活発に働いている黒土の中で成長してゆけば植物は健全に育つ。

自然農法の4大原則

(1)不耕起(鍬や耕運機などで耕さない)

 地中のミミズなどの生物や微生物、植物の根などの働きで自然に耕され地力が年々増加してゆく。

(2)無肥料

 動物の糞や落葉など、動植物の生活環境が活発だと化学肥料はいらない。

(3)無農薬

 自然がバランスしていれば病気や害虫は発生しない。

(4)無除草

 草は生える理由を持っている。何らかの役割を担っている。わらとクローバーで除草作業に対処した。

自然農法の基本パターン

 不耕起直播/冬蒔き/緑肥草生

米と麦作りの方法

 秋、まだ稲のある内に(10月上旬)クローバーの種を10アール(1000㎡)当たり500グラムほどばら播く。つづいて10月中旬に麦の種を10アール当たり6~10キログラムばら播く。下旬の稲刈りをする時にクローバーも麦も2~3㎝に伸びているので麦踏をしながら稲刈りをすることになる。出来た稲わらは長いままで田畑全面に振りまく。11月中旬以降、稲の籾殻を6~10gの粘土団子にして播いておく。その後乾燥鶏糞をアール当たり20~40㎏散布しておけば種まきが済む。籾をそのまま播くとネズミや鳥の餌になったり、腐ったりするので団子状にする。粘土に籾と水を入れて練り、金網から押し出して1cm大の団子にする作業が必要。5月の麦刈りの時、稲苗を踏むがやがて回復する。出来た麦わらを長いまま田畑の全面に振りまく。クローバーの繁茂が激しいのでその抑制にもなる。6~7月は水をかけず8月以降時々水をかける無滞水状態で秋を迎える。稲は通常の栽培に比べて非常に小さい。

普通の稲作との比較

 一般には稲を1m以上の大きな丈に育てて大きな穂を実らせ、収量を増やすようにしている。これに対して自然農法では稲丈を低く、5~60cmに抑える。茎の数を300本/㎡以上となるように種を多めに播く。この方法だと500本/㎡位の密な状態でも日光は下まで届き、1穂百粒以上の籾が採れる。水田ではわらが100㎏出来たら米50~60㎏の生産量だが、自然農法では100~120㎏出来る。水田農法ではわらを大きくするために澱粉が使われてしまうのに対して、自然農法では茎の丈が低い分実に栄養が回る。

わらを利用した農法

 わらは切ったりしないで長いままで振りまく。この農法はわらを徹底して利用することから成り立っている。稲には麦わらを、麦には稲わらを。

(1) 土を肥やす   

 田から持ち出すのは実だけ。わらや籾は全て土に返し、土壌に還元する。鋤き込まないで置くだけで肥沃な腐葉土ができる。

(2)発芽を改善

 土を深くかけると発芽が悪くなる。浅いと倒れる。敷きわらの間から芽を出してくるので、発芽がよく倒れにくい。

(3)雑草対策

 敷きわらで雑草の生長を抑える。

(4)スズメ対策

 直播きの種モミがスズメに食べられるのを敷きわらが防いでくれる。

現在の農業技術

 現在の稲作は田圃を深く耕して水を入れ、練るので空気を追い出してしまい、結果としてバクテリアを殺してしまう。研究者や技術者が化学肥料を開発し、この肥料を使用すると米がよく採れるようになった。しかしながら、天候や環境の変化で少しでもバランスを失うと病気が発生してしまう。研究者や技術者が専門化、高度化して自分の領域しかわからないため全体を俯瞰した問題解決が出来なくなってしまった。日本の行政が縦割りで問題を複雑にしているように。自然の土は放っておいたら自然に肥えるので肥料は必要ない。自然農法が示すように肥料は自分のわらのリサイクルでほぼ充分である。コンディションを整えれば病気の発生もない。農薬を使って益虫を殺したり、川や海を汚染したりすることの方が大問題である。

なぜ自然農法が広まらないか?

 現在農業に従事している農業関係の事業者や研究者達に何の物質的な貢献をしない。農業用の機械設備、肥料、農薬など、ほぼ全てが不要になるため農協などは関心を示さない。宗教法人で取り入れて実践しているところはあるようだが、一般には広まっていない。かえって外国人から注目され、見学に来る。

この本には他にみかんの自然栽培についても書かれている。福岡さんは何事も原点に立ち返って考えている。自然食や公害、農政等幅広いテーマを掲げて評論している学者が書いているのと違って、すべて実践の裏付けのある発言だけに重みと説得力がある。

蔵前バイオマスエネルギー技術サポートネットワーク 福島 巌記

    

         

カテゴリー: バイオマス パーマリンク

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