「幻想のバイオマスエネルギー」は幻想である 2010年9月1日廣谷 精

久保田宏先生は、「幻想のバイオ燃料」を2009422日に日刊工業新聞から発行しました。この度要点を整理して「幻想のバイオマスエネルギー」の題名で再出版しました(2010.8月)。

先生に対して大変失礼ではありますが、K-BETSの検討方向と全く違った意見でありなぜこのような主張になったか以下に検討してみたい。

  先生が技術情報検討会で常々主張しておられたのは「日本にはバイオがない」という言葉でした。また車の燃料として「ディーゼルやアルコールを生産すべきでなく、輸入すべきでもない」という事でした。しかしその根拠になった情報は古い、疑問あるものであり賛成できるものではありませんでした。本の出版を通して社会にその情報が流れることは当NPOとして極めて重大な問題であるのでここに私の意見を以下にを述べる。
  私の「日本にはバイオ(にできる材料)がある」いう意味は、サトウキビのような既存のバイオはないけれど、バイオを作る気があれば作る場所はあるということである。日本には未耕作放棄地が30haあり、そこで藻を培養すれば日本で発生する炭酸ガスの7%はこれで吸収できる。日本の森林からは木材が毎年2億m3成長している。
そして世界
6位の広い海(経済権海域)があり、海草や海藻の培養が可能である。
バイオを活用する環境は充分そろっているがそれを上手に利用する意欲があるかどうかである。    今地球の炭酸ガスは増加しつつある。産業革命前は280ppmであったものが現在は380ppmとなっている。このままで行くとまもなく500ppmとなり、更に恐竜時代の1000ppmになる時代がやってくる。
IPCCが温暖化と炭酸ガスとを結びつけて、EUが自分達の農業に有利にするための政策として車にエタノールを使うべきと言い出したということはあるかもしれない。
石油のピークが2014年(2020年、2030年説等あるが)に来るといわれており、そのためにオイルシェル、オリゴノタール、タールサンド等から油を作る、あるいはメキシコ湾の深海から掘るというような対策が検討されている。油の価格が高くなるのは明白である。しかし化石燃料である石油を利用すれば炭酸ガスは増え続けるのは間違いない。
そこで救世主として期待されて登場したのがバイオマス燃料である。バイオは炭酸ガスを吸収し、成長し、加工されそれで燃料となり、燃焼されてガスを空に返す。つまり炭酸ガスはリサイクルしているので増えることがない。

  今電気自動車が評判である。補助金が付いて、エネルギー効率がよいというのは事実である。
しかしまだ走行距離が短いとか、安全性の問題とか技術的な課題がある。
エネルギー効率が良いこと排ガスが出ないことから推奨されそれを信じて人気がでている。
しかしちょっと待って欲しい。電気はどうしてできるのかを考えてみよう。
それは化石エネルギー(石油、石炭)を使用して発電したものでバッチリと炭酸ガスを発生しているのである。もちろん太陽電池からの発電、原子力による発電等炭酸ガスを発生しないものもある。
しかし発電に際して種々の問題を抱えており、それらにすべてを任せる訳には行かない。
太陽電池は設備コストが高く、買い取価格が
48/kwhであり(家庭電気は29円/kwh)その差額は結局税金での補填になっている。また原子力発電は稼動率60%と低く政治的に解決する問題が多くあるように感じる。バイオでの発電ということもあるが、全量バイオ(木材等)での発電ということになると発電効率が低くなることもあり、化石燃料との混焼で進むことになると思われる。  ブラジルのサトウキビから作るエタノールのν(正味のCO排出量の削減率)は他のエタノールがマイナスであるのに対して+0.87と良い値になっている(久保田先生の計算)。
エタノールの生産で炭酸ガスが全く出ないという時は
1になり、+0.87はほぼそれと同じ製品と言う事ができる。
このようにCO排出量の削減率が良い値となったのは久保田先生が言うようにバガスの燃焼エネルギーを利用したためで、この方式をもっと見習い活用する必要がある。
しかし久保田先生はバガスの利用がいかにも悪い事をしているような書き方であるが、これもバイオであり利用すべき技術である。
いまブラジルでのエタノール生産コストは
15/Lであり、原油を中東で買う場合70$/バレルとするとエタノールは半額で買えることになる。
よく問題になる運搬費の問題は、ブラジルと中東とは距離的に同程度である。
久保田先生はエタノールは原油より高くなるとしているが、何のデータで言っているのだろうか。

私はブラジル方式の技術問題を改善し、日本の資本を使って東南アジアで生産し、日本に輸入すればさらに安価で良いものが使えるようになるのではないか。久保田先生は東南アジアでの計画調査に参加して「うまく行かなかった」と言っていますが、どういう計画を考えていたのだろうか。
計画が
1979年ということであるから古いデータを使ったのではないか。
今技術は日進月歩である。特に今セルロースから作るエタノールの進歩が著しい。
日本はこの分野遅れているが、アメリカでの進歩は著しい。
佐野レポートによるとZea Chem (米国)が一番進んでいるように見える。
ポプラ等の木質作物を使ってエタノールの生産コストが
24/Lで出来ると発表している。
残念なことにCO排出量の削減率νはこの論文に書かれていない。
この方法は
1)木材を糖化して酢酸発酵し、エタノールと反応して酢酸エチルとする。
2)残渣をガス化し水素等取り出し、酢酸エチルを水素添加してエタノールとする。
3)合成ガスは燃焼し、発電を行い工程のエネルギーとする。
  この論文を読むと私は石油に取って代わりバイオの時代が来る。
  エタノールは永遠だと思うのですが久保田先生は感じないのでしょうか。
廣谷 精記

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