イギリスの住宅の暖房システム 2012年2月5日 荒川英敏

 ロンドン便り その6 
 日本の方は厳しい寒さが続いているようですが、当地、ロンドンも寒さが厳しくなっています。
22日は快晴、1月17日に到着して以来初めて抜けるような青空をで3日、4日と続きましたが、しかし今朝は昨日とは一変して雪で積雪は10cm、気温は-3℃でした。
日差しがあれば暖かくなるのではと期待しているのですが、なにせロンドンの緯度が樺太の真ん中位なので日照時間が短く、8時ごろから明るくなり4時過ぎには暗くなってしまいますし、太陽は見た感じで水平線より30度位しか上がらないので太陽の暖かさを期待するのは無理なようです。


 イギリスは輻射暖房が主流 

イギリスでは温水式パネルヒーター、蓄熱式暖房器、オイルパネルヒーター、暖炉となります。この様にイギリスの一般的な暖房は輻射暖房がほとんどです。一方、温風暖房はごく少数派であります。これは温風の強制対流による不快感はいかんともしがたく、最近日本ではエアコンは性能が向上し、省エネ率の高い機種が出回ってきていますが、基本的には温風による強制対流方式であるため輻射暖房の快適さとは比較になりません。

  一方、日本ではマンションに床暖房を標準で施工するケースが増えてますが、もともと床暖房は北方アジアの代表的な暖房であるオンドルの考え方であり、床に座る生活習慣の無いイギリスやヨーロッパでは普及することはなさそうです。   イギリスで輻射暖房が主流になっているのは、かってどこの家にでもあった暖炉の火に対するノスタルジアでもあり、薪や石炭の火が発する穏やかな輻射熱と暖炉の周りのレンガや建物の構造体に蓄熱された熱が生み出す柔らかな輻射熱が、癒しのひと時を創りだしてくれることをイギリス人は良く知っているのでしょう。考えて見ますと薪を燃やす限りではバイオマスですね。残念ながら今日では1950年代に始まった都市部の煤煙規制で暖炉に火を入れることは出来ませんが、地方ではまだ暖炉を使っている所が沢山あります。

 この様に輻射暖房が普及しているもう一つの理由として、イギリスに来てまず目に付くのはレンガ造りの家、家、家・・・すべての住宅がレンガ造りと言っても過言ではありません。それもそのはずです、今から約340年前の1666年にロンドンは歴史上で最悪の大火にみまわれたのです。当時ほとんどが木造家屋だったため、パン屋の失火から広がった火災はロンドンの大半を焼き尽くしてしまったのです。この火災からの教訓で時の政府は木造家屋の建築を全面禁止とし、新しい建物は全てレンガ造りとする事を定められ今日に至っています。この事はイギリスの住宅のヒートマス(熱容量)が大きい建物となっている為輻射暖房には好都合なのです。 

 輻射暖房は、各部屋に設置されているパネルに、電気、ガス、石油と少数派のバイオマス燃料でボイラーから供給されるお湯が循環しているいわゆるウエットシステムと呼ばれるものですが、システムが複雑でメンテが必要で設備費も高いのが難点です。  それに反して、深夜電力を利用する蓄熱式暖房器はドライシステムと呼ばれ、システムが簡単でメンテもほとんど不要で、設備費も安上がりで、ランニングコストもガスよりは安いのでかなり普及しています。   前置きが長くなりましたが、それでは滞在先でも使用されている暖炉と同じ効果が得られる輻射暖房の蓄熱式暖房器を紹介いたいと思います。

 蓄熱式輻射暖房器の原理 前にもご説明させていただいたと思いますが、蓄熱暖房器には蓄熱レンガが内蔵されています。この蓄熱レンガを電気ヒーターでエコノミー7と呼ばれている深夜電力(午前0時から7時までの7時間の電力のことで、日本の深夜電力の原型です)を使い最高で7時間加熱しその熱を蓄熱レンガに蓄えます。つまり、蓄熱するわけです。  7時間加熱された蓄熱レンガは最高700℃に達します。これはほとんど赤熱状態です。この時のレンガの蓄熱エネルギーは非常に大きく、例えば滞在先の24型(240V,ヒーター容量3.3KW)の場合、最大蓄熱量は24KWhとなります。これは普通の電気暖房器(1KW)こうして蓄熱された熱は部屋の暖房の為に、二通りの方法で徐々に放熱されます。

  大半の熱は本体のフロントパネルから輻射熱(電磁波)として放熱され直接人体や建物の構造体を徐々に暖めます。この放熱が24時間にわたってつまり暖房期間中途切れることなく続くのです。この結果、建物の構造体にも蓄熱され室温の平準化が出来るのです。この現象は外断熱で高断熱・高気密構造の建物や熱容量の大きいレンガ造りの建物ではその効果が顕著になります。

 もう一つの放熱は蓄熱暖房器本体の下部から空気が静かに吸い込まれ、本体の高さが床から70cmあるため煙突効果が生じ、蓄熱レンガの中を通って本体上部のグリルから放熱される自然対流熱です。結果として、温風がなく静かで、ほこりやチリの舞い上げのないおだやかな暖房感覚を得られ、ちょうど5月頃のポカポカ陽気が部屋の中に再現される感じなのです。  ちなみに滞在先で使用されている蓄熱式暖房器は1897年に創業の老舗暖房・調理器メーカーCREDA社の1986年製ですが、この当時に開発されたアナログ式の自動蓄熱量制御装置が内蔵されています。

  これは、蓄熱時間帯(夜中から明け方)の外気温度の下がり具合(勾配)を感知するセンサーが本体の床から10cmの高さの所に内蔵されており、これによって外気温度の下がりが激しい時は、その日の外気温度は低くなるので蓄熱量を増やし、逆に下がりがゆるやかな時は、その日の外気温度はあまり低くならないので蓄熱量を減らし、蓄熱量を自動制御しているのです。   これは気象学の原理の一つで、「夜中から明け方の温度勾配はその日の外気温度と相関 関係にある」と言う原理を利用したアイデイアです。いかにもイギリス人らしく物理の原理原則に忠実にそったアナログ技術で感心することしきりです。この装置が付いている機種では、そうでない機種より消費電力が25%も省エネになるので評価されていました。 

 滞在先もこの機種のおかげで、25年経った今日でもしっかりと140㎡の居住スペースが24時間にわたって20℃に保たれています。  日本でも最近の住宅は高断熱・高気密仕様が普及していきいるので、蓄熱暖房器との相性はぴったりですので、日本での普及を期待したいところです。 

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玄関ホールの蓄熱暖房器(幅105cm、奥行12cm、高さ70cm、蓄熱容量24KWh  p1060675.jpg     

ダイニングエリアの蓄熱暖房器(玄関ホールと同じ大きさ)

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22日、来英以来初めての晴天。白樺は落葉していますが、芝生は緑を保っています。

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一変して25日は初雪で10cmの積雪に!

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