蔵前工業会「バイオマスセミナー」 日本の資源-森林が日本を救う

2014年6月11日(水)東工大蔵前会館「ロイアルブルーホール」にて開催されました講演会の概要をお知らせします。参加者130名
講師は農林水産省 関東農政局長 末松広行氏と王子グリーンソース(株)代表取締役社長 藤原章二氏
1014seminar01.jpg

Ⅰ.「森林・林業政策の今後展開」末松広行
日本の森林の状況
日本は国土面積の約2/3が森林です。戦後の植林により2012年では49m360%は人工林)となり、年々約1m3以上増えています。人工林は、植林と伐採の健全な循環が重要です。現在は、60年前の植林を収穫する良い時期になっており、林業を成長産業化する政策を進めています。

木材需要の創出
 国策として公共建築物等の木材利用促進を法律で定め、都道府県、市町村もこれに準じています。木材で作った消防署もあり、JR九州では新幹線駅舎や列車の外壁にも木材を使っています。一般住宅では「木材利用ポイント制度」を作り、国産材中心の木造住宅を推進しています。この様な施策により木材の伐採量が年10%増えてきています。

  木材資源のエネルギー利用
 再生可能エネルギーの固定価格買取制度により、木質バイオマス発電の燃料となる地元の木材需要が増えています。輸入する化石燃料では燃料代を国外に支払うが、木質バイオマス発電では地元に冨が還元されます。また太陽光などとは異なり24時間発電できる安定電源です。木質燃料は継続的に調達する必要があり、森林を整備維持しながら発電するので、地域雇用と地域産業の活性化など地域経済にプラスになります。

  太陽光発電と木質バイオマス発電の比較
総発電量を同程度にした場合太陽光の発電容量はバイオマスの6.5倍の規模が必要になります。夜間や曇り空では発電できないからです。従って設備投資額も約5倍で購入資金が海外に流れます。バイオマスは原料購入費用は総コストの約6割を占めていますがこのお金は林業や輸送費用として地元に還元され、雇用も生みだします。太陽光は総コストも多い(1.2倍)上にその7割以上がメーカー等外部に流出するお金です。

新たな建築素材の開発利用

新たな建築材料としてCLT(Cross Laminated Timber)があります。CLTは合板の一種で非常に強度があり、外国では8階建てのビルも建設されており、日本でも社員寮をCLTで作った例があります。東京オリンピックでは木材利用が基本方針に入っています。

適切な森林整備の推進

まず森林内の作業道の整備です。作業道の長さは、日本では18m/haと短いが、山が多いオーストリアにおいても77m/haあります。作業道があると機械を持ち込んで木の搬出が効率化できます。次に機械化を進める事です。K—BETSが開発中のチェーンを使った集材システムは、簡便で安全性が高く期待できます。

人材育成
林業の就業人口は2010年で5万人となり30年前に比べ1/3に減っていますが、高齢化率は低下し若年者率が上がってきています。「緑の雇用」制度による新規就業者の定着率が7割位で良好です。機械化を進めた林業の現場では若者が増えているので、林業技術者の研修・育成を進めています。木材の需要が牽引役となって林業の現場が良くなっていくと思っています。


Ⅱ.「王子グループの森林資源とその活用」 藤原省二

  王子グループの森林経営
王子グループは、1873年に創業し、木材パルプの製造を開始後、原料確保のための山林購入と植林を行い、持続可能な森林経営を行っています。国内では、民間最大の19ha(約大阪府の面積)を所有し、70%が北海道です。海外では主に広葉樹を植林していますが、ユーカリ・アカシアの場合は、8年程度で収穫が可能となります。

社有林の多面的機能活用

森林には生産機能以外に様々な機能があります。水源涵養としては裸地の約3倍の水を蓄え、水質浄化機能もあります。生物多様性保全として、王子グループではブラジル等において動植物保全の支援をしています。またCO2吸収としては、王子グループのCO2排出量452万トンに対し、王子グループの管理する森林において1360万トンの吸収があります。レクレーションと文化・教育では、王子の森を一般開放し、子供向け自然体験学習を開催しています。

バイオマスエネルギー利用の歴史

紙パルプ製造業界では、副産物のバイオマスをエネルギー活用しています。王子グループでは1951年からエネルギーに利用し、パルプ製造で使うエネルギーの約50%は自家発生です。化学パルプ製造で副生する有機物質(黒液)や機械パルプ製造の副産物として発生する樹皮は、ボイラーで燃焼し、発電や蒸気によるエネルギー利用をしています。

王子グループの発電事業

  王子グループのバイオマス発電事業は、既存の製紙工場付帯のインフラを活用でき、操業技術は自社設備としてボイラー・発電機の運転など長年の操業ノウハウの蓄積があり、燃料集荷の確実性も高いという利点があります。このためグループ資源の有効活用により競争力のある発電事業が可能です。現在、宮崎県と北海道に25MWの発電所を建設中で、2015年に稼働予定です。各発電所で運転要員や、林業関連、その他チップ加工工場などでの雇用増が見込まれます。

バイオマス資源の高度利用
王子ホールディングスでは、バイオマスを活用した化学品・中間体(石油由来でないグリーンケミカル)から機能性材料を製造する検討を進めています。具体的な取組みとして、木材パルプをナノオーダーまで解繊し(セルロースナノファイバー)、透明シートを連続生成することに成功しています。また、米子工場では、将来のプラスチック原料として期待されるフルフラールを連続製造する実証試験を進めています。

カテゴリー: K-BETSセミナー パーマリンク