蔵前バイオ通信 第2号 2009年12月14日

 K-BETSの理念 

「人類が安心して住める地球環境を守るため地球の温暖化を防ぎたい。そのためには
地上に排出される炭酸ガスの量を減らす努力をする必要がある。その一つとして身近
にあるバイオマス(生物資源)をエネルギー源として活用することを目的とした活動
を行う組織」
 K-BETSは東京工業大学の各種分野のOBを主体にした組織でありますがバイオ
マスに関心のある方には広く門戸を開放していますのでお問い合わせ下さい。
ホームページ http://www.kuramae-bioenrgy.jp

  *******************目次 ***********************

l 微細藻の培養について
l  海の活性化を取り戻す方法
 l 炭酸ガスの取引に関するクレジット制度
 l オーストリア林業情報
l バイオ燃料のエネルギーバランス
l ホームページの内容と更新状況
l 世界のバイオ情報-佐野レポートから抜粋
1.炭酸ガス貯蔵技術の問題点
2.炭酸ガスの性質
3.2005年にピークを迎えた石油需要
4.セルロースエタノール製造方法
5.藻の光合成を利用して水素を作る
6.世界第三の炭酸ガス排出国はインドネシアである
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微細藻の培養について

マイクロリソース社http://microresource.netの貞松社長から微細藻の
培養に関する講演をいただいた。M社は藻が持っている特殊な成分を抽出し
て健康食品や医薬品を作っている。
例えばアラキドン酸:老化防止の抗酸化剤としてサントリー(株)からアラ
ビタという名前で売り出されている。哺乳類には必須脂肪酸であるが植物か
ら取ることはできない。藻から抽出してサプリメントとして利用される。
藻の培養は非常に難しい。
藻の種類は3万種もあるが特定の1種類(顕微鏡で見るほど小さい)を培養
するには常にコンタミネーション(汚染)の問題が付きまとう。

また生き物の培養であるため生産管理が大変で技術の進歩が求められている。
現在抽出後の80~90%以上は残渣になっているがこれを動植物の飼育に使い
栄養素豊かな卵や牛乳、牛肉を生産する夢もある。
多数の藻には思いがけない効用が隠されているし地方の活性化に寄与する希
望もある。藻の種類によってはアルコールを作り出すものもありバイオ燃料
としての期待を持っていたが生産コストは?付きであった。
詳細はホームページに掲載してます。
海の活性化を取り戻す方法


気仙沼の漁師畠山重篤さんが書いた「鉄が地球温暖化を防ぐ」は大変すばら
しい内容ですごいヒントを頂いたと思う。
海草がよく育つためにはN,Pや珪素など栄養素は必要であるが鉄分がない
と体内に吸収する事ができない。
その鉄分は森の木の葉が腐食してバクテリアが分解してできたフルボ酸とい
う有機物になって川を下る。従って木の少ない禿山からは鉄分が運ばれない。
海草やプランクトンが吸収するにはイオン化した二価の酸化鉄が有用である。
竹炭に鉄粉(使い捨てカイロ)と粘土を混ぜて焼結したダンゴを海に撒いた。
こうすると一種の電池を形成して鉄分が溶け出す。その結果海草が育ち貝や
魚が繁殖するようになった。
鉄分を海に供給することでコンブが育ち炭酸ガスを吸収してくれたら温暖化
防止には有意義である。
そのコンブからバイオ燃料ができたら更にハッピーである。
■炭酸ガスの取引に関するクレジット制度

炭酸ガスの削減量取引や排出削減計画事業の評価など実務を実行する専門家
が不足している。これを支援する
[国内クレジット事業支援センター」
http://www.kokunai-shien.jp が発足した。
資格試験に合格すれば自治体や企業のサポーターとして活動できるし個人でも
開業できる。

■オーストリア林業情報
大使館の商務官ハイジ・フィノキアロさんからオーストリアのバイオエネルギーの
講演があった。オーストリアは北海道の大きさで人口830万人。
山と森林の国だけあってエネルギーも水力発電とバイオに重点が置かれている。
オイルショック後の政府の補助金政策がうまく機能して森林産業が活性化している。
コーレンス社の中村さんからはこの国の林業機械について説明あった。
シューターとウィンチで集材する方式に皆さんの関心が集まった。
(ホームページに詳細掲載)
■バイオ燃料のエネルギーバランス


1.バイオアルコールを製造するに必要なもの
サトウキビやトウモロコシを収穫するためには肥料、農薬、農機具が要る。
車で工場に運搬した後アルコールにするには発酵、濃縮、蒸留のプロセス
がある。これらを作るのに化石エネルギーを使うとしてその収支は?

2.製造するための必要エネルギー量を求めた
エネルギー(E)バランス: 
  生産されたバイオE/その生産のために必要な化石E
の比率で求めた(文献に基づいた標準生産工程で算出)。
  トウモロコシ:0.58~0.98 サトウキビ:7.60~9.30 
   セルロース0.35~0
サトウキビからのプロセスが極めて有利である。反面トウモロコシ、
セルロース等は澱粉を糖分に分解するプロセスが必要であり余分なエネル
ギーが要る。(ホームページに詳細掲載)
3.最近の動き
各種セルロースから作り出すべく米国を中心に世界中で研究開発が進められている。
日本でも
三菱重工が前処理と糖化工程、白鶴酒造が発酵、関西化学機械が蒸留を担当
した新プロセスを開発した。これをベースにした日本初のセルロースエタノール工場
(明石市)が稼動した。
******ホームページの内容と更新状況******
 

 コラム-技術者がバイオマスを語る1.  「鉄が地球温暖化を防ぐ」 畠山重篤 文芸春秋社
2.  「目の誕生」 アンドリュー・パーカー 草思社
3.  講演会 微細藻の培養技術について マイクロリソース社
4.「森林の崩壊」  白井裕子著   新潮新書
5. 講演会 オーストリアの林業事情 オーストリア大使館
6. イワシはどこへ消えたのか  本田良一   中公新書

 ◇ニュース&トッピックス

1. 花畑便り(6)、(7)

2. 安曇野の秋


佐野レポート 10、11月より抜粋


◇炭酸ガス貯留技術(CCS)の問題点
米国ではCCS装置を装備した新石炭発電所が稼動した。
建設計画中のものもありこの技術の問題点が論議されている。
炭酸ガスを液状化して高圧で送り込むため地震を誘発する可能性がある。

塩性帯水層の地下水汚染、地震などによる地上への漏洩、国境をまたがる地域
の責任の所在などなど。
特に大きいのがガスを分離、圧縮、輸送、モニタリングに要する莫大な投資である。
◇炭酸ガスの性質
気体は炭酸ガス、固体はドライアイス、水溶液は炭酸水と呼ばれている。
常温常圧では分子量44、密度1.98kg/㎥(25℃)。
気体-液体-固体に分かれる三重点は-56.6℃、5.2気圧である。

常圧では液体にならず-79℃で固体(ドライアイス)になる。
圧力と温度を上げると7MPa以上、温度31℃で超臨界状態になる。
液体のように高い密度を有しながら気体のような流動性を持つ。
水の約70%の密度になり気体に比べ体積が減少する。
ガスを地中に圧入する場合深くなるに従い温度上昇(25℃/m)するのと圧力
を上げる必要がある。

深度1500mに達すると超臨界状態になるので体積最小(地上の2.8%程度)になる。
これ以上の圧入深さは必要としない。
(炭酸ガス貯留テクノロジー 地球環境技研機構編の資料による)

◇2005年にピークを迎えた石油需要
石油の需要はほとんどが交通輸送部門で使われている。エネルギー効率の
改善、高齢化社会の到来、代替燃料の進出、車の燃費効率アップ等の理由
で減少を続けている。
今後の予測ではOECD加盟国では横ばいであるのに対して非加盟国での増加が見
込まれる(2009年8,380、2014年8,910万バレル)。

◇セルロースエタノールの製造方法
植物の頑丈な細胞壁を構成するリグノセルロースは多種の糖分からでき
ているため分解されにくくバイオ燃料製造の技術的な難題である。
これをどう乗り越えコストを下げるかがバイオ燃料の将来を左右する。
米国で開発中の3社の方式が紹介されている。
(1)COSKATA社
原料を高温でガス化してCO+Hの混合ガスに変換する。これをバイオリ
アクター内で特殊加工した微生物によってエタノールに変換する方法である。
(2)Zea Chem社
シロアリの体内に住む微生物を利用する。酸で糖に分解した後この菌で酢酸が
できる。これと水素を反応させてエタノールにする。

従来工程では糖を醗酵する時その中にある炭素が炭酸ガスの生成に消費される。
このプロセスではそれが無いので歩留が50%程度アップする。

(3)Mascoma社
遺伝子操作により作った微生物でセルロースを糖に分解する。
その糖を直接醗酵してエタノールにする。 

◇藻の光合成を利用して水素を作る
自動車の代替燃料として水素が注目されているが安価な製造方法がない
ために進んでいない。
テネシー大学等の研究チームは藻の太陽光変換能力を活用して水素源の製造
に成功した。

好熱性の青緑色の藻が白金の触媒で持続的な水素を発生することを発見した。
植物が死滅して長期間かけて石油を作る時間とバイオ燃料を作る莫大な
エネルギーを省略することが可能になった。
砂漠の条件である55℃の高温でも反応は継続するという。
ノーベル賞級の偉大な発見である。
 ◇世界第三の炭酸ガス排出国はインドネシアである
11月23日世界気象機関(WMO)は「08年度の大気中炭酸ガス
平均濃度は385.2ppmに達し史上最高濃度を記録した」と発表した。
前年比0.52%の増加である。
排出量の大きいのは米、中国に続いてインドネシアとブラジルである。

毎年イングランドの広さの雨林が破壊されている。
ここで出る炭酸ガスは世界中の車の排出量より多くCOP会議の話題になる。

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