二子山・兵ノ沢の沢登り 2010・07・26  吉澤有介

西武線小さな山旅シリーズ(その4)

今回は涼しい沢登りをご案内しましょう。
といってもこれは沢登り初歩のそのまた入門の、ごくやさしいルートです。
私は学生時代を山岳部で過ごしましたが、そのルーツは旧制高校山岳部の探検的山行で、現在でも国内最高の難度といわれる東北の飯豊の沢が、私たちのホームグラウンドでした。
先輩のH氏と二人で入った大又沢で、雨の中を10日かけてようやく完登したときの感動は60余年を経た今でも忘れられません。
その後も奥多摩、丹沢、谷川連峰、東北の山々などで、ワラジ履きの沢登りを続けてきました。
しかしトシを重ねるともう危ないことをやってはいけません。
そこでなるべく近いところで2時間くらいで楽しめるやさしい沢を探すことにしたのです。
そこで出会ったのがこの兵ノ沢でした。
ここ20年近く毎夏訪れる、私のとっておきの沢なのです。

西武秩父線 芦ヶ久保駅から、線路の下のトンネルをくぐって二子山に向かうとすぐ山道になり、小さな尾根を越えるともうそこが目指す兵ノ沢です。

駅から10分も歩くとあたりはすっかり深山の気配で、クマ出没注意の看板にドキリとしますが、この沢は小さいながらも、沢筋の岩肌が美しく2mから5mほどの小滝が連続し、ゴルジュもあれば滝壺には立派な釜もあり、一人前の沢登りの気分が楽しめるのです。

しかも沢沿いには、目につかない高みに二子山への登山道があるので、いざというときにはいつでも逃げられる安心感があります。沢登りに単独行は厳禁ですが、ここだけは気軽にのんびりと歩くことができるのです。だれも気がつかないようですが、こんな楽しい沢はそうはありません。山道にかかっている丸木橋から沢に入ると、冷たい流れに素ワラジが実に快適です(いかに古典的なスタイルか、もうお分かりでしょう)。
しばらくジャブジャブと進んでゆくと最初の滝1の岩棚です。
以前にスキー仲間の女性たちを案内したら、もうここで感激して「ファイト一発!」とやりました。

dscn1692.JPG次のF2には立派な釜があり、ゴルジュも厳しくてとても直登はできません。ギリギリに高巻きすると、F3、F4と手ごろな滝が続きます。どんどん越えてゆくと、ここで現れるのがこの沢一番のF5です。高さは5mほどですが、流れの中央に適度なホールドがあって、スリル満点のシャワークライミングはもう最高の気分です。
○○の滝と名前をつけたいところですが、まあ遠慮するとしましょう。
この滝は上の登山道からも僅かに見えますが、ほとんどの登山者は気がつかないようです。
まさに沢屋だけの別天地なのです。

dscn1694.JPGさらにいくつかの滝を越えてゆくと、やがてまた登山道に出会いますが、ここまで約1時間半、主な滝はほぼ完登したことになります。
この先は次第に流れが細くなり、適当なところで切りあげて上の登山道に出ると、まわりの自然林は素晴らしく、それまでの緊張から解放されてやはりホッとします。

dscn1699.JPG水源に近いこのあたりでは、よくサルの群れに出会いました。いつもだいたい正午前後に、20頭くらいの子連れの群れが、先頭の見張りに続いてザワザワと遊びながら通り過ぎます。
たぶん回遊のルートが決まっているのでしょう。

 ここでワラジを靴に履き替えて、のんびりと登山道を下ります。
夏の盛りに何も頂上までゆくことはありません。
足元から冷えた身体には、ちょうど心地よい涼しさが残ります。
 ただ気がかりなのは、間伐で直径40cmもの立派なスギがそのまま多数放置されていました。
葉枯しかもしれませんが、ここなら沢の中をハーフパイプで下す手もありそうです。

dscn1700.JPG途中にこの二子山一番の巨樹があります。小さなホコラが祭られているので、きっと山の神なのでしょう。エノキのように思いますが大きすぎてよくわかりません。いつもここでお参りをして今日の無事を感謝することにしています。あとは駅前の茶店で冷たいビールが待っているというわけです。
 この兵ノ沢はガイドブックにもないので誰も入りません。
一部に流木が邪魔しているところもありますが、すこし取り除くだけで沢登りの素晴らしい入門コースになるでしょう。
もしご希望されるようでしたら、いつでもご案内しますのでどうぞご連絡ください。「了」

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