鳥海山トレッキング報告

2009.08.07  吉澤

この夏、ようやく念願の鳥海山で、花のトレッキングを満喫してきました。ここは毎年狙っていたのですが、なかなか手(足?)が届きませんでした。何しろ酒田までのアプローチがたいへんなのです。そこで今回は池袋からの夜行バスでゆくことにして、不安定な天気図を分析した上で思い切って当日の申込で飛び乗りました。
この長距離バスのシートは一人掛けのリクライニングでしたが、安眠などもともとムリな話です。しかし贅沢は言っておられません。ウトウトしているうちに鶴岡でカーテンの隙間からの朝日がまぶしく、やったという感じでした。7時に酒田に到着、8時の鳥海ブルーラインバスに乗継ぎます。
バスは10人ほどの登山客を載せて日本海に沿って北上し、吹浦から山に入りました。車窓からはどうしても林相が気になります。海岸は日本海特有のクロマツの防砂林が続きますが、山に差し掛かるとここでもやはりスギの人工林です。日当たりのよい道沿いのスギはかなり立派ですが、よく見ると奥のほうは密植したまま間伐もほとんどされず、暗くて貧弱な林でした。傾斜も緩く大型の機械でも楽に入れそうなのに、全くその気配はありません。3合目くらいからはスギと広葉樹の混交林になってきます。そこでのスギはさすがに見事な勢いがありました。やはりここは秋田スギの本場なのですね。人工林の放置が惜しまれます。
周囲は一面のブナ林になり、それが次第に矮生に変わってやがて5合目の終点である鉾立に着きました。大きな駐車場に立派な山小屋やレストランがあり、良い拠点になっています。ここはもう森林限界を超えて、澄んだ空に快い風が吹いていました。

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象潟登山口はここからです。立派すぎる舗装道から石畳の道がゆるやかに続いて、しかも終始ウグイスのBGMつきですから、まさに高齢者にぴったりのコースでした。やがてチングルマの咲き乱れる賽ノ河原に到着、ここには雪渓もあって最後の水場になっています。

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あとは一面の草原を一登りして、昼ころに今日の宿の御浜小屋に着いてしまいました。早すぎるようですが、夜行バスではこれ以上のムリはできません。ここはすでに標高1600mですから、あたりはもう一面のお花畑です。眼下には旧火口の鳥海湖が青く輝いて、まことに印象的でした。雲の流れる鳥海山頂上はもうすぐそこです。小屋にザックを置いて、あとの半日はこの周辺をのんびりと散策することにしました。これこそトレッキングの醍醐味なのですね。

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とくに南の笙ケ岳への稜線から鳥海湖越しにみた山頂は見事な眺めでした。小さな雲がどんどん流れてゆきますが、小屋の主人の話では、7月以降こんなに晴れた日は初めてなのだそうです。お天気は大当たりでした。

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登山口の鉾立から前後して歩いた人たちは、ひたすら山頂を目指して登って行ったので、ここにはもう一切の人影もなく静寂そのものです。空には大きなイヌワシが悠々と旋回していました。

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お花畑は予想をはるかに超えた素晴らしさでした。シシウドの仲間に可憐なヒメシャジン、ハクサンフウロ、トウゲブキ、ハクサンイチゲ、ニッコウキスゲ、コバイケイソウなどなど、まさに色とりどりの天国です。バスを下りてわずか3時間ほどでもうこの別天地ですから、こんなうれしいことはありません。

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散策コースは鳥海湖を半周して、さらにその先の千畳ケ原に続いています。どこまで行ってもお花畑なのです。

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だいたい一般のガイドブックでは、必ず頂上に登ることになっているので、ほとんどの人はそのことしか頭にありません。たとえガスで何も見えなくても雨に降られても、ただ登頂することだけが目的になっているので、時間に追われてとてもお花畑を楽しむ余裕はなさそうです。さらに百名山ブームがその傾向に輪をかけました。猫も杓子も百名山の登頂を競っています。しかし山は頂上あたりが一番厳しいのです。中高年の遭難者が増えるのもあたりまえでしょう。高齢者は、雪渓や岩の続く山頂は若い人たちにまかせて、ヒマラヤやスイスなどのようにのんびりとお花畑を逍遥したいものです。
この日は日本海に沈む夕日を期待していたのですが、雲がしだいに厚くなって残念ながら上空にかすかな夕焼けが見られただけでした。星空もお預けです。ここの御浜小屋は場所は良いのですが、水のないのが玉に瑕でした。トレッキングの基地としては鉾立の山荘が良いかも知れません。今夜の宿泊客は8人だけでした。こちらは夜行の疲れもあって20時には爆睡してしまいました。
翌朝4時に起きてみると、一面のガスでどうやら怪しい空模様です。やはり晴天は続かないのですね。しばらく待っていると雲間に太陽が上がってきましたが、すぐ隠れてしまいました。すでにお天気は完全に下り坂です。

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今日のところは早めに下ることが一番なので、せいぜい8合目の七五三掛(しめかけ)まで行ければ充分と考えました。それでもここ象潟口のお花畑はほとんど歩いたことになります。霧の粒が顔にあたって雨が近いことを知らせてくれました。
御浜小屋を出てしばらく行くと八丁坂に差し掛かりました。ここもまた見渡す限りの素晴らしいお花畑です。うまいこと晴れ間が覗いてくれました。

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七五三掛では山頂直下なのにガスが濃くなって視界は30mくらいになってしまいました。頂譲は全く見えません。この上に上がればチョウカイフスマも見られるはずでしたが、未練を残さず下ることにしました。

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鳥海山は本当に素晴らしい花の山でした。トレッキングコースとしては、立山の弥陀ヶ原や上高地と並ぶ魅力があります。皆さんも一度お出かけになってはいかがでしょうか。
(吉澤 記)

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