「もしも月が2つあったなら」ニール・F・カミンズ著 2018年3月8日 吉澤有介

― ありえたかも知れない地球への10の旅 -  増田まもる訳、東京書籍2010年9月刊
これは先にご紹介した「もしも月がなかったら」の続編です。前作は発表以来、テレビ番組やプラネタリウムのショウになり、大学の授業に使われ、2005年には日本の愛知万博の三菱未来館のテーマに選ばれ、その後、長崎のハウステンボスの恒久アトラクションになりました。
もしかしてあり得た地球への興味は、私たちの銀河系に生物のいる惑星があるかも知れないという、天文学のホットなテーマにもつながるのです。
地球は、太陽系の中でも多くの点で独特です。まず月が一つしかありません。火星には二つ、木製には少なくとも63個もあります。一方、金星と水星には月がないのです。月があるお陰で、しかもそれが適度の大きさであったことで、地球には早くから生命が生まれ、共に進化してきました。その月が、もしも2つあったらどのようなことになったでしょうか。
第一の月は、火星サイズの天体が衝突して生まれました。そのとき放出されたデブリ(岩屑)が、公転しながらお互いの引力で集積して月になったのです。それをクウと呼びましょう。太陽系にはさらに多くのデブリが、カオス的に漂っています。その一部の動きがわずかに変化して、すでに生命の存在していた地球(仮にデマーンと呼ぶ)とクウの引力に捕捉されて、クウと同じ大きさの第2の月ルルーナが、デマーンとクウの中間の距離に形成される可能性があるのです。その時期を、デマーンとクウの誕生後42億年としましょう。デマーンの植物が本格的に上陸した頃です。ルルーナの捕捉と形成は2週間で完了しますが、その過渡期のデマーンは大混乱になるでしょう。潮汐は8倍になり、巨大津波で地震と火山噴火が続きます。地下から大量の水蒸気とガスが噴出し、生物は大絶滅するでしょう。
しかしかっての地球の大絶滅のように、ごく僅かな生命が生き残り、新たな進化を開始します。デマーンの環境は、毎夜ルルーナとクウのどちらかが出ています。距離の近いルルーナはクウの2倍の大きさに見えます。日食や月食、それに二つの月の満ち欠けも複雑です。両方の月が満月になれば、地球の満月の5倍の明るさで、本も読めます。動物がいたら、捕食者と獲物、防衛や生活の行動も変わるでしょう。海辺や河畔に都市があれば、潮汐で壊滅します。ルルーナには固体潮汐が起き、火山活動が活発で、噴出物は隕石となってデマーンに落下します。二つの月はやがて衝突して一つになります。その衝撃はデマーンに甚大な被害をもたらしますが、その頃にはすでに高度に発達した文明が対応することでしょう。
著者はさらに「もしも地球が月だったら?」、「月が逆向きに公転していたら?」、「地殻がもっと厚かったなら?」、「地球が今から150憶年後に生まれたら?」、「太陽の反対側の軌道に反地球があったら?」、「地球が銀河のどこか他の場所で生まれていたら?」、「太陽の質量がもっと小さかったら?」、「地球に太陽が2つあったら?」、「他の銀河が私たちの銀河に衝突したら?」と問いかけます。それぞれが独立して起きたと想定しましたが、どれもみな宇宙ではごくありふれた現象なのです。壮大な思考実験を堪能した一書でした。「了」

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