「怖くて眠れなくなる植物学」稲垣栄洋著 2018年1月30日 吉澤有介

PHPエデタース・グループ、2017年7月刊 著者は、植物学者で静岡大学農学部教授です。さきに「面白くて眠れなくなる植物学」を上梓しました。本書はその続編で、身近なテーマを入口に、植物の不思議をやさしく紹介しています。
その怖いエピソードのいくつかを取り上げてみましょう。
・天変地異がやってくる
「タケに花が咲くと枯れる」といわれます。一般にタケは60年に一度花が咲くといいますが、古文書の記録では、日本のマダケは120年の周期で一斉に花が咲き、そして枯れていました。花が咲いて枯れるのは、植物ではごく普通のことですが、タケの場合はその周期が途方もなく長いのです。人々は昔から、何か悪いことの前兆ではないかと恐れてきました。しかしこれは単なる迷信ではなかったようです。タケの花が咲くと無数の種子ができます。そこでその種子を食べるネズミが大発生し、田畑の農作物をも荒らして、大飢饉が起きていたのです。日本では、1970年代にマダケが一斉に咲いて枯れました。次の開花は2090年になります。その時何が起こるでしょうか。
・毒を使うプリンセス
魔女はホウキで空を自由に飛びます。そのときホウキに塗るのが、ヘラドンナやヒヨスというナス科の植物の汁でした。魔女たちは植物の知識が深く、薬草の調合を仕事にしていました。今でいう薬剤師です。ヘラドンナやヒヨスには毒性があり、幻覚や催淫の作用がありました。森に暮らす魔女たちは、それで空を飛ぶような感覚になったのかもしれません。
またこのヘラドンナの絞り汁は、中世の貴婦人たちが点眼剤に使っていました。毒の作用で瞳孔が開いて、目が美しく輝くというのです。使いすぎて命を落としたりもしました。
やがて魔女たちに悲劇が訪れます。中世の魔女狩りが始まったのです。毒薬にはネコの血を混ぜていたので、ネコも大量に虐殺されました。その結果は恐ろしく、天敵のいなくなったネズミが大繁殖して、ペストの大流行を招いてしまったのです。
・ブスになる
四谷怪談のお岩さんの盛られた毒はトリカブトでした。トリカブトは毒殺によく使われます。忍者集団の風魔一族は、この毒を使う暗殺集団だったそうです。アイヌもクマを射る毒矢に用いていました。花言葉は恐ろしい「復仇」で、ギリシャ神話にも登場します。
トリカブトの根は、「附子(ブス)」といいます。食べると神経系統がマヒして、無表情になります。これが「ブス」の語源でした。ブスとは顔の美醜でなく、無表情のことでした。
・アインシュタインの予言
「もしミツバチがいなくなったら、人類は4年以内に滅びる」と言ったそうです。多くの植物は虫媒花ですから本当でしょう。生態系のつながりでは、「英国の栄光は、オールドミスのおかげ」という話があるそうです。戦争が起こると未亡人が増える→寂しいのでネコを飼う→ネズミが減る→天敵がいなくなってミツバチが増える→アカツメクサが増える→羊が増えて、その肉で英国海軍が強くなる→戦争が起こる。こんな話が満載でした。「了」

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