「地球を(売り物)にする人たち」マッケンジー・ファンク著2017年8月10日 吉澤有介

-異常気象のもたらす不都合な(真実)― 柴田裕之訳、ダイヤモンド社2016年3月刊
地球温暖化の影響に対しては、多くの人たちは気候変動を身近に感じて、その脅威を免れるために、実現が容易でないテクノロジーに賭けようとしています。
ところがその一方で、気候変動を絶好のビジネスチャンスと捉える人たちがいました。
著者はアメリカのジャーナリストで、深刻な事態にある世界各地を訪ねて、気候変動ほど大規模で普遍的な出来事が、悪いことばかりであるはずがないとして目先の利益を求める、抜け目のない人たちの動きを丹念に追っています。その実情は驚くべきものでした。
まず気候変動関連ファンドがありました。それはクリーンテクノロジーやグリーンテクノロジーよりも、気候変動が進んだときに業績が伸びそうな企業を重視するのです。北極海の氷が解けて、これまでになかった航路が開けました。この北西航路に、カナダとアメリカが領海か国際海峡か利権を巡って激しく対立しました。また浅い北極海は、海底の殆どどの場所も、どこかの国が領有権を主張でき、その大陸棚には膨大な石油とガスや、鉱物資源が眠っています。117500平方kmの海底が、23平方km単位でリースセールが行われ、一番手のシェルがその殆どを落札して各国を驚かせました。シェルは風力や太陽光など再生可能エネルギー分野からすべて撤退して、この北極海に賭けていたのです。
グリーンランドは、気候変動の恩恵に沸いていました。氷床が解けるごとに石油が湧き出し、レアメタルや金が露出しました。今や宗主国のデンマークから独立する勢いです。オーストリアでは、アルプスの氷河が縮小して、スキーリゾートが大ピンチになりました。そこに登場したのがイスラエルの人工雪製造装置です。その市場は、10億ドル規模に達しています。イスラエルで開発されたこの装置は、もとは海水の真空凍結式浄化のための技術でしたが、それが逆浸透淡水化技術に変わったために転用したのです。氷河の消失が思わぬビジネスチャンスになりました。また淡水化技術自体も大きく発展しています。
旱魃もビジネスになりました。北米では、何千という民間の消防業者が、政府機関の代わりに森林火災と戦っています。保険会社と組んで、契約者の家だけを守るのです。シリコンバレーまでが、気候変動をチャンスとして再保険業界に参入してきました。気候変動関連投資家にとって、水は明らかな投資対象です。二酸化炭素の排出は目に見えないのに、氷が解け、ダムが空になり、豪雨が襲うのは具体的です。水関連のファンドが生まれ、「水」そのものを世界中で買いあさっています。水はおカネのあるほうに流れるのです。
海面上昇は世界の低地国を脅かしています。そこにオランダが、中世以来の防潮技術で躍り出ました。バクテリアで砂岩を作り、浮遊式地盤の構築を提案するなど、ロッテルダムは低地のシリコンバレーとなりつつあります。デング熱やマラリア、異常気象現象の多発などのリスクも、さまざまなビジネスを生み、多くの特許が出ています。
そこには気候変動を止められないと割り切った、人間の非情な現実主義がありました。悪人と言い切れないそのしわ寄せは、弱い人たちに向かうことになるのでしょうか。「了」

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