「ミミズの話」エイミイ・スチュアート著 2015年5月25日 吉澤有介

      人類にとって重要な生き物「ミミズの話」
著者は、テキサス大学大学院を終了後、地域計画、環境関連などのライターをしながら、夫とともにカリフォルニア州サンタクルーズの海辺に住み、かねてから憧れていたガーデニングを始めました。その土づくりのために、裏庭のポーチに小さなコンポストを置いて、キッチンの生ゴミを捨てることにしたのです。そこで働いてくれたのがミミズでした。
彼女は、堆肥作りの名人シマミミズを手にとって、その不思議な体と生態にすっかり感動してしまいました。そこでダーウインの最後の著作「肥沃土の形成」にゆきついたのです。ダーウインのこの研究はまさに画期的なものでした。しかしその後の研究は、あまり進んでいないようです。地下世界については、直接の観察ができないために、宇宙や深海よりもわかっていません。調べてゆくと、ミミズたちの働きは予想を超えるものでした。

ミミズの祖先は5億年前のカンブリア紀に現れ、それが遠く離れた大陸に分布しています。ミミズは大陸移動の生き証人だったのです。4500種もいるそうですが、その分類もまだ遅れているため未発見の種も多く、オーストラリアには体長1mのミミズもいました。
生態も未解明の部分が多い。目も耳もなく、雌雄同体でも相手を求めます。食物の好みがあるので、脳は原始的でも知能はありそうです。再生能力は驚異的で、さまざまな切断実験も興味深いものでした。ただ死ぬとすぐに分解されて消えてしまいます。他の微生物との関係も複雑で、ただ土を食べて耕すだけでなく、ある種の細菌を殺したり、他の細菌を増やしたりもします。これはうまく使えば病害駆除にも生育促進にも役立つでしょう。

ミミズにはまた別の一面がありました。北米大陸のミミズは氷河期に激減したので、現在いる種は、ほとんどがヨーロッパからの移民と一緒に移住したといいます。その外来のミミズが森に侵入すると意外なことが起こったのです。ミネソタの原生林では、落ち葉がミミズに食べつくされ、下層植生のシダや山野草が消えてゆきました。ようやく芽を出した実生の若木もシカに食べられて、このままでは森が消滅してしまうというのです。ミミズは土を良くするはずなのに、これは信じ難い話でした。森にミミズが入ってくると、ハタネズミやトガリネズミがいなくなって、小動物や昆虫などの生態系が変わってしまうのです。森林内の気象まで変えていました。研究者たちは、その対策に頭を悩ませています。
しかし一般的に農地でのミミズは、やはり生きた農耕器具なのです。ニュージーランドは、ヨーロッパからミミズを牧草地に移入して、最初の数年間で農業生産性が70%もアップしました。ミミズはただ黙々と活動します。周囲にあるものを片端からふるいわけ、ひっくり返して休みなく進んで行きます。ミミズが消化して出す糞のパワーが、生ゴミを黄金の土に変えるのです。ミミズは、土壌中の物質をすべて取り込んでしまいます。高濃度のDDTも吸収したので、環境科学者たちが注目しました。PCB汚染土壌の浄化や、下水汚泥活用にも役立っています。ダーウインは、ミミズの働きをしっかりと捉えていました。
彼自身も、一族の墓地の土に帰ることが望みでしたが、教会の意向は「輝かしい死者」としてウェストミンスター大聖堂に埋葬することでした。石の下に眠っています。「了」

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