「これから食えなくなる魚」小松正之著2014年12月23日 吉澤有介

 著者はもと水産庁の参事官で、多くの国際会議の日本代表を務め、捕鯨問題などでは、タフネゴシエーターとしてその名を知られていたそうです。その専門家が本書で、あまりにも世界から立ち遅れた日本漁業の惨状を指摘し、マグロをはじめとして、サバ、イワシ、タラなどの多くの魚が、日本人の口に入らなくなる日が遠くないと警告しています。

 2006年、「サイエンス」に衝撃的な論文が発表されました。アメリカとカナダの学者によるものですが、2048年には海から魚がいなくなるというのです。これは決してありえないシナリオではありません。現在世界は、空前の魚食ブームになっています。日本の漁獲量は、この半世紀で世界一から第6位まで落ち込みましたが、この間の世界の漁獲量は激増しているのです。そのために世界の漁業資源のうち、75%はもう獲ってはいけない状態だといいます。事実、資源量の枯渇で漁獲量はすでに年1,5億トンで頭打ちになっています。

 日本では、以前から若者の魚離れが言われていますが、今でも日本人は一人あたり年間およそ65kgの水産物を食べて、世界第一位なのです。とくにマグロやサケやエビなどの高級魚が多い。しかしその9割以上が輸入魚となっています。そのため日本の漁業は極度に衰えてしまいました。その責任は、消費者だけではなく、漁業者も資源管理を怠り、流通業者も大量消費の効率に捉われて国内漁業を軽視してきたことにあるのです。

 一方輸入魚には深刻な問題があります。 輸入したくても外国に買い負けすることも多くなり、また安全性も危ない。地中海の養殖マグロには、ダイオキシンが国産の天然ものに比べて50倍も多い。養殖そのものも、幼魚を捕らえて資源を逆に悪化させています。

 国内の養殖も安全ではありません。エサの魚粉は、チリやペルーからの輸入で、船が赤道を越えるときに、発火を防止するためにエトキシキンなどの抗酸化剤が義務付けられていますが、それには発がん性があり、日本では農薬としても禁止されているのです。

 日本では、地元の魚が地元で食べられない。たくさんいる魚より高く売れる魚を獲り、それが大都会に流れます。漁業者は目先の利益しか考えず、高級魚を獲れるだけ獲ってしまおうとします。しかし水揚げしても港に加工設備が足りずに、有利な販売ができません。

ところが漁船が減っていても漁港岸壁整備の予算が多い。まさに縦割り行政なのです。

 地球温暖化で海水の温度が上がり、近海の魚種が大きく変わってきています。資源量の多い魚を獲る、魚種変換も真剣に考えなければならないのに、その姿勢も見られません。しかしノルウェイやアイスランドでは、漁業枠を融通するITQ方式で、漁業者はじっくりとマーケットに対応して健全な経営に成功しています。行政の指導力が問われるでしょう。
 日本では海の魚は民法上「無主物」で、漁業権を持つ漁師の所有物とみなされています。その漁業権は、なんと豊臣秀吉が村上海賊を沿岸地域に定住させるために考え出した日本独特の制度でした。それが今でも「漁業を営む者は漁業者に限る」として生きているのです。しかし1994年に発効した国連海洋法条約には、海の魚は「無主物」ではなく、人類共有の財産であると明記されました。排他的な漁業権の見直しが急務なのです。「了」

 

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