日本水産業の現状と課題 八田達夫、高田真共著 2013年5月14日 吉澤有介

  「日本の農林水産業」より(その3要約

 さきに(その1)林業と(その2)農業についての要約をお届けしましたが、今回は(その3)として水産業についても追加して要約してみましょう。
ある漁船による漁獲量の増大は、他船の総漁獲量を減少させますが、市場原理に任せておけば、漁船は我先にと乱獲に走ってしまいます。これは「共有地の悲劇」という市場の失敗です。そこで政府がどのように市場に介入して、資源を管理するかが水産業における最大の政策課題になるのです。

 わが国における漁獲量は、外国と比較して著しい減少傾向にあります。80年代をピークにその落ち込みは急激でした。下関の水揚量は、25万トンから2万トン弱まで、塩釜港も14万トンから1万トンまで、その減少はすべての魚種にわたっています。漁港への経済的打撃は極めて深刻なものでした。しかし諸外国では、漁獲量は着実に回復しているのです。これは日本の資源管理制度がうまく機能していないことを意味しています。その管理制度には、沿岸漁業・養殖業など漁船を利用しない漁業権制度と、沖合い・遠洋漁業など漁船に対しての漁獲量許可制度の二つがあります。ともに政府の大きな失敗がありました。

 まず漁業権については、資源管理の目的に沿わないだけでなく、非効率な参入制限として機能し、生産性の低下をもたらしています。特定の水面で定置網や養殖業、それに地引網などで漁業を行う免許(権利)は、地元の漁業者や漁協、その組合、一般の順位で与えられるので、新規参入はまず困難です。それに新規申請者には地元が反対します。

 しかし水産資源の持続的な利用や、漁業秩序の維持に地元を優先する理由はありません。それどころか、戦後大幅に減少した漁村人口と高齢化にもかかわらず、地元漁業者を優先したために、かえって漁村の衰退を招いてしまったのです。この優先順序を撤廃して、意欲ある者が誰でも参入できる環境づくりが急務でしょう。権利の移動もあって良いのです。

 沖合い・遠洋漁業においては、広域漁場が対象になるので、漁獲量の監視に主眼をおいた許可制度が採られています。その資源管理の基礎データは、生物学的に許容漁獲量を策定し、それに基づいて行政的に総漁獲許可量を定めます。その実施方法が問題でした。
 わが国では、自由競争の中で漁業者が魚種ごとにその許可数量に達した時点で、漁業を中止させる、いわゆるオリンピック方式を採用しています。しかしこれは早い者勝ちですから、どんな小さな魚でも獲ってしまいます。一方、大きな魚を獲ったほうが重量あたりの販売価格は高くなるので、船ごとに漁獲量を定め、それを1年間で獲ることにすれば、網の目を大きくして大きな魚だけを獲るようになり、稚魚は逃がします。その結果水産資源が保たれるのです。諸外国ではすべてこの方式を採用して、漁獲高は大幅に回復しました。早い者勝ちでは、スピードが勝負になるので燃費もかかり、集中入荷で市場価値も下がる。年間で獲れば経済的で生産性が上がります。ノルウェイの漁業は高収益で、若者の魅力ある職場になっています。年収も平均900万円と高く、漁船の船室はまるでビジネスホテル並だそうです。(日本の年収は300万円)しかも年間の半分は休暇を楽しんでいます。残念ながら日本はすっかり遅れてしまいました。早急な改革を望むばかりです。「了」

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