「決着! 恐竜絶滅論争」 後藤和久著 2012年7月15日 吉澤有介

  恐竜の話になると、今も昔も世界中の人々が熱狂します。そのため、今から6550万年前の白亜紀末に起きた恐竜を含む生物の大量絶滅の原因は、多くの人々の興味の的になってきました。そして現在定説になっているのは、198066日にサイエンス誌に発表された「白亜紀第三紀境界(K/Pg境界)での絶滅の地球外的要因」という極めて説得力のある論文に始まる小惑星衝突説です。最初の発表者はノーベル物理学賞を1968年に受賞したW・アルヴァレズとその子息(地質学者)の父子でした。そのシナリオは直径10±4kmの小惑星が地球に衝突し、その際に大量のダストが放出されて、太陽光を数年にわたって遮断して寒冷化し、光合成生物の活動が止まり、大型草食動物、肉食動物の連鎖的な絶滅となったというものです。その論拠となったのは、もともと地球表面にほとんど存在せず、隕石だけに多く含まれるイリジュームが、K/Pg境界層に異常に濃縮されていることでした。この発表は衝撃的で、賛否両論の大論争を巻き起こしたのです。

 しかしその後の研究で、天体衝突の証拠が続々と見つかり、1991年にはメキシコ・ユカタン半島の地下1kmから、直径180kmのチチュルブ・クレーターが発見されて決定的な証拠となりました。99年には当時大学院生であった著者も現地調査して、巨大津波が高さ300mに達していたことを確認しています。またこの衝突地点は炭酸塩/硫酸塩岩地帯だったために、大量のCO2や硫黄が大気中に放出されたこともわかりました。世界中の研究者が競い合って、衝突直後の環境変動を追及し、その結果驚くほど詳細に全容が明らかになってきています。直径1015kmの小惑星は、地球表面に対して南南東から30度の角度でユカタン半島に迫りました。その衝突速度は秒速20km、放出されたエネルギーは広島型原爆の10億倍と推定されています。衝突地点の爆風は時速1000km、温度は1万度に達し、地球表面温度は260℃となり、数分から数時間も続きました。地震のマグニチュードは11以上で、大規模の地すべりや、巨大津波が発生しました。衝突に伴うダストで、10年間に最大10℃の寒冷化がおき、海面から水深100mまで酸性化したとみられています。

 ところがこれだけの環境変動が明らかになったのに、なお反対論が根強く提唱されているのです。恐竜は徐々に絶滅した。絶滅は火山噴火による。絶滅は衝突とは無関係だ。などというものです。いずれも著名な生物学者の執念でした。彼らは論文で反論できないので、メデアを利用する戦術に出たので、一般にはまだ論争が続いているかのようにとられています。しかし圧倒的な研究成果で、それらの論拠は次々に砕かれてゆきました。

 同時に衝突絶滅説もさらに強化されたのです。光合成食物連鎖の恐竜たちが絶滅したのに、なぜ哺乳類や爬虫類や鳥類が生き残ったのか、それは落ち葉や菌類、昆虫や地中動物などを食料とした腐食連鎖の中にいたためと考えられています。海洋でも植物プランクトンに頼らない底生有孔虫は生き残ったのです。研究はさらに大きく進展しました。 著者は世界の気鋭の専門家40人と共に、20103月にサイエンス誌に最新の研究をまとめて発表し、論争が決着したことを大きく宣言しました。本書はその貴重な報告です。「了」

カテゴリー: 気候・環境 パーマリンク