自己組織化とは何か 都甲潔ら共著 講談社ブルーバックス 2012年7月9日 吉澤有介                 

   生物の特徴の一つに、自分で自分を作り上げる自己組織化があります。「ランダム」から「秩序」に向かう現象です。エントロピー増大の法則に反するこの現象は、雪の結晶などにも見られるもので、閉じた系の中に内部エネルギーがあるときに平衡系でも秩序化に向かい、非平衡系でも振動やリズムが加わるとある秩序が現れるのです。それらは数学的に解けないカオスなどの複雑な現象で、自己組織化は現代科学のキーワードとなっています。

 生物には遺伝子という設計図がありますが、時間の流れとともにさまざまな形をつくるのは、自己組織化の機能によります。赤ん坊の脳が大人の脳に成長する過程は、自己組織化そのものです。神経細胞が複雑なネットワークをつくることで知能が生まれるのです。

 自己組織化の好例である粘菌は、環境に応じて生命活動を変えます。形も大きさも自在に変えるので、迷路問題や最短コースの選択などの幾何学の難題まで簡単に解いてしまうのです。そのようなダイナミックな生命活動をヒントに、自己組織化テクノロジーが急速に発達してきました。本書では、味覚や臭覚を再現したり、ミトコンドリアの燃料電池の機能に迫ったりする最先端の事例が数多く紹介されています。興味深い本でした。

「了」

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