日高市の「新井竹芸」訪問記 2014年5月14日 吉澤有介

   爽やかなお天気に誘われて、岩田さんと一緒に奥武蔵の「日和田山」に出かけました。西武秩父線の高麗駅に下りると、めざす「日和田山305m」はすぐ目の前です。ヒガン花で有名な巾着田への道と別れ、高麗川沿いの登山口から入ると、いつもの静かな自然林の山道になりました。やがて現れたチャートの岩頭からは、南に雄大な大展望が開けます。

 のんびりとオニギリを頂いて、左手のバリエーションルートから山頂へ向かうと、満開のヤマツツジがまだ残っていました。

 (このコースはK-BETS便り2010419日付け「日和田山」でレポートしました)

 帰りは男岩、女岩へのルートを、岩ガール?たちのクライミングを見ながら下って、高麗駅に戻ったのは14時半、まだ昼のうちです。

 駅前に、かねて気になっていた看板がありました。「新井竹芸・竹炭窯元創業1930年」とあります。いつか訪ねてみたいと思っていましたが、ちょうど良い機会です。岩田さんから電話すると連絡がとれました。国道299線を秩父に向かって徒歩15分のところです。

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  新井竹芸のお店                     材料置き場と社長さん

 工房はいかにも竹の里という風情です。2代目の社長さんにお話を伺うことができました。先代が竹の加工業で創業されたのは、1930年(昭和5年)といいますから、業歴はもう84年になります。当初はまだ竹細工は盛んでした。いろいろな日用品に欠かせなかったのです。それが戦後の高度成長期にほとんどプラスチックに代わって、竹の需要が急減してしまいました。同業者の廃業が相次ぎ、現在はこの地域で当社のみが残っています。先代からの竹についての強い思い入れが、昭和19年生まれの2代目に確かに受け継がれたからなのです。その事業展開は、実にしっかりとしたものでした。

 「新井竹芸」のホームページをご覧ください。→  Http://www.chikugei.net/

主力商品はその竹芸通信にある、自社開発の神社仏閣のお札に添える小熊手と竹炭です。

新年のお札は、毎年安定したレピートがあります。しかも縁起物ですから付加価値が高い。現在は佐野厄除け大師、高幡不動尊、それに地元の高麗神社向けだけですが、市場としては、全国的に莫大な需要が期待できそうです。ただ手作りのために生産が追いつかないというのです。まことに惜しいところですが、その工房を拝見して驚きました。

 小熊手は長さ20cmですが、手作りといいながら原材料の真竹(購入)から、切断、成型に至る約10工程のすべてを、自社開発の専用機で加工しているのです。細かい手作業を、地元の機械工場に依頼して半自動化した、その工夫は実に見事なものでした。微妙な成形工程だけは、地元の内職に出していますが、それも開発した専用冶具を貸与して、品質規格を維持しています。まさに商品開発における独自技術の好例を見る思いがしました。

 次の竹炭ですが、小熊手製造時に出る多量の竹の端材を燃料として、独自設計した2基並列の土窯で生産しています。1基あたり1斗缶大の金属容器12個に裁断した竹を入れ蓋をして、燃料とともにトロッコに載せ、土窯に入れて燃焼させます。生産性より品質を優先させていましたが、端材の活用といい竹酢液もとる、かなり合理的な生産設備でした。しかもそのすべてが自社の独自技術ですから、先代以来のノウハウの蓄積は、実に貴重なものといえるでしょう。この竹炭は炊飯器向けと入浴剤として商品化しています。また竹炭を粉末加工すると、健康サプリメントとしての新用途も期待できるそうです。

 このほか従来からの竹ベンチ、花入れ、竹ウマ、竹かご、煤竹などの懐かしい商品もあり、国道沿いの即売店も開いています。従業員は現在4人とのことでしたが、地元の若い女性が参加していました。近くに団地もあり、内職なども含めて地域おこしにも大きな役割を果たしているようです。2代目社長の温厚なお人柄も魅力的でした。たまたま日和田山ハイキングの帰途にお目にかかり、当方2人とも思わぬ嬉しい一日を過ごすことができて感謝に堪えません。まことにありがとうございました。

 日高市や飯能市など、この地域ではまだ竹林拡大の被害は少ないようですが、竹の活用はやはり大きな課題ですから、なお新しい用途の商品開発を期待したいところです。「了」
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本格的な竹炭を作っているのをみてびっくりです。よくこの窯を現在まで残してくれました。日高市の文化財的な価値があると思いました。これからはこれら伝統をいかに生かしてゆけるか。日高市の課題ですね。東京からこんな近くに伝統技術が生きていました。岩田 頼次郎

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