第9回森林文化講演会(2013年8月3日) 吉澤有介

  飯能市の「第9回森林文化講演会」の大要

・講師  秋田県立大学木材高度加工研究所 中村 昇 教授 東大大学院農学系研究科修士、新潟大学教授を経て現職。木質材料学専門。

・演題  「木材産業の今後に向けて」 ー製材業を中心にー

・内容  

1.木材はバランスの良い素晴らしい材料である

 コンクリートや鉄は、性能に偏りがあるが、木材は、圧縮、曲げ、引っ張り、比熱、 熱伝導率、比重、熱膨張率、どれをとっても優れている。しかも加工しやすい。圧縮や捻り変形しても、容易に復元できる。透明フイルムや、ソフトクリームの形状保持材にもなる。新商品開発の可能性は大きい。

2.製材業は利益を出せる産業か?

1)経営成績が比較的良い会社は、東北より西日本や九州に多い。

 決定的な違いは、東北では国有林材にしがみついてきた体質が強く、厳しい競争に揉まれてこなかった。末端のニーズを知らず、老朽化した設備で並材を挽き、関東の伝統的問屋に出荷するが、品質が安定せず、北関東、福島の製品にも負けている。

 西川地域の抱えている課題も、これに近いのではないか。事業量は減少し、機械は老朽化し、ユーザーの乾燥材やモルダー掛けなどのニーズに応えていない。

 西日本・九州では、創業とともに民有林を競り買いし、相手より高い原木で事業するため、設備効率を高めてコストを下げ、外材の多いマーケットでも価格・品質で勝負できる強い経営体質を構築している。

2)森林資源の豊かな先進国の製材業は、国の産業として重要な位置を占めている。

 ドイツの森林関連産業の就業人口は、自動車産業の2倍に近い130万人もいる。人工林面積は日本と同じだが、生産量は2.7倍。その6割を輸出して稼いでいる。カナダでも森林関連の雇用数は全体の6%、産業規模はGDP8%に達する。

 日本の製材業は総雇用数の0.05%、木材生産高はGDP0.19%に過ぎない。
3)身近なところでも優秀な会社がある。

 福島県の協和木材は、奥久慈に山林を持ち、国産材では最大規模の豊富な製品を揃え、従業者200人で売上高42億円、経常利益6,300万円の上場会社である。

 山形県の庄司製材では、従業者67人、近隣80km圏内から原木を大量に確保し、製造工程を自動化して、高品質の工務店向けプロショップとして、きめ細かくニーズに対応している。商品開発にも力を入れ、ムダを出さない。ガーデニング向け商品を開発して関東のホームセンターに出荷している。

4)飯能市にもチャンスはある。

 埼玉県の製材業の現状をみると、一般製材業では、スギ、ヒノキとも、生産量、出荷額ともに低位にあるが、建築用木製組立材料では、事業所当たり、従業員当たりとも、全国の上位を占めている。首都圏にあるから、高付加価値製品、マーケットインされた製品、とくに建築用以外の製品を狙うことだ。

3.農業と木材産業

1)農業・木材産業は似ている?

 農業については、「日本農業の正しい絶望法」神門善久著(新潮新書)の厳しい指摘がある。耕作技術が低下、まともな土つくりができない。名ばかりの有機農産物なども多くはニセモノで、食べてもうまくない。認証そのものが目的になっている。林業も同じだ。

2)重要なことは、規格ではなく、品質管理である。

 本当にうまい農作物は、高額でも直接消費者が買ってくれる。製材業でも、商社や、工務店などが高く買ってくれる商品をつくらねばならない。高付加価値のブランドを、誰がつくるか。

4.木材産業の今後

1)需要の動向を見極める

 日本の生産人口(1564歳)は確実に減少する。2013年は7933万人、2020年には7445万人となることが確定している。つまり消費人口も確実に減るということだ。住宅は空き家が増える一方になる。建築用材ばかり向いていたら、製材業の将来はない。

 日本の製材業は、輸出を本気で考えたらどうか。韓国も、中国の富裕層は日本の木造住宅を熱望している。高額でも売れるだろう。TV「夢の扉」で紹介された石川県羽咋市神子原の「型破りスーパー公務員」高野誠鮮氏の、ローマ法王庁にコメを輸出した行動力を見習うことだ。 建築用材だけでなく、家具などの木工品、土木用材なども含めて、木材を使用した総合的な商品つくりを進めよう。

2)西川地域での、ITを用いた緩やかな水平連携構想

 既存工場の特性を生かしながら、乾燥や、高次加工を担う共同利用施設として、新たな組織を立ち上げる。情報の収集発信と、個々の経営体制や、営業力の強化をはかる研修、共同受注・出荷システムの構築などを積極的に進めよう。西川材エコウッド製品管理・販売センターもどうか。

3)木材産業は農業と連携し地域産業を発展させること

 埼玉県でも深谷市は、農業も畜産も工業も産出額がトップである。産業連携の効果が大きい。飯能市は林業もさえないが、農業も下位に甘んじている。野菜の出荷額は圏内市町村の47位である。これはどうしたことか。

 もともと木材産業と農業は相性が良い。お互いに連携を深めて発展してゆく、新しい体制を構築してはどうか。とくに木材は、さまざまな可能性を秘めた材料なのだ。                                    以上

 201383日  K-BETS参加者 米谷、本多、阿部、吉澤

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