日本のエネルギー政策とベストミックス 2012年1月9日 吉川浩    

福島第一原発事故以来、日本のエネルギー政策は行方不明になっているようである。現状では、国民の80%近くが原発に否定的な考えを持っていると云われており、これを受けてか、野田首相も原発を漸減すると発言している。

大震災以前の政策では、たしか温暖化ガス削減を全面に掲げ、電力源は原子力に大きく依存する方向を示していたはずである。今や、状況は一変して、原発の稼働率は大幅に落ち、電力会社は廃止寸前だった老朽化した石油火力を再稼働させ、LNG火力、石炭火力と合わせて電力需要を何とか賄っている。そう、温暖化ガス削減問題は何処かに押しやられ、化石燃料依存からの脱却どころか、官民揃って天然ガスの確保に走っている有様である。当面はとにかくこれからのエネルギー政策がこのまゝで良いわけがない。  そもそも、日本のエネルギー政策は平成14年に制定されたエネルギー政策基本法に基き数年毎に経産省で作られている。新しいところで平成22年に策定され閣議決定されたエネルギー基本計画がある。

これによると、安定供給(Energy Security)、環境への適合(Environment)、経済効率性(Efficiency)が基本方針として掲げられており、2030年の目標が示されている。これを達成することがエネルギー源のベストミックスの確保だとしている。個々の政策をみると原子力発電の強化が目立っており、2020年には総発電量の50%を賄うとされている。再生可能エネルギーの導入拡大もうたわれており、2030年には一次エネルギーの10%に達することを目指すとしている。無論これだけでは十分では無いので、化石エネルギーとして、天然ガスへの依存度を上げ、石炭もCCSIGCCの技術の確立を前提として活用するとなっている。石油は減少するものの依然として基幹エネルギーに位置付けられ、第3番目には水素エネルギーが独立して挙げられている。 

さて、問題は山積みである。原子力は冒頭に記したように先が見えなくなっている。定期点検後の再稼働は、今のストレステスト位では地元住民もさることながら国民的合意を得られるとは思えない。新しい原発の建設は話題にもならないだろう。原子力に代わって主役になりつつあるのが天然ガスである。シェールガスの開発が進んで採掘可能な埋蔵量が一気に増え、石油よりクリーンである事も加え、今や希望の星となった感がある。しかし、従来型に比べ探鉱、採掘のコストは高い。無論、温暖化ガスの発生源である。更に心配なのは、長期的価格上昇である。BRICsを先頭に開発途上国の経済は確実に成長し、エネルギー消費量は増える一方であろう。いかに天然ガスを増産し続けてもいずれ需要は供給を上回り価格は暴騰する。石炭も同様である。日本にはCCSに適したCO2の格納場所は殆どなく、建設コストも莫大であり現実的とは思えない。効率を限界まで引上げる技術を開発する方が現実的であろう。再生可能エネルギーについてはようやく現実味を帯びてきたところで、普及の過程における問題点を見出すところから始めなければならない。牽引役になりそうな太陽光や風力はまだコストは高いが、コストダウンの成果は上がりつつあり、いずれ化石燃料が高騰すれば価格的には追い付けるだろう。問題はお天気まかせの不安定性である。短時間での急激な負荷変動を吸収できる設備、揚水発電には立地的制約があるとすれば、大型蓄電池の開発と次世代型送配電ネットワークの整備を急がなければならない。

バイオマスは暫くは量的には多くは期待できないが楽しみな分野である。しっかりした長期的方針の下に、単にエネルギー資源としてだけでなく、将来の総合産業として雇用面も含め育成することを検討し具体的施策を立案する必要がある。水素エネルギーには大いに疑問がある。自然エネルギーを使って水の電気分解を考えているのならまだ研究課題の領域で、現実的には炭化水素を原料として水蒸気改質等の化学反応を経て製造しているためその過程でCO2の発生もあり、エネルギー損失も伴う。普及のための莫大なインフラコストも考慮すれば、当面は対象外だと思う。  このような状況の下でも一国のエネルギー政策が無いのは異常事態であるから、今春には新しい基本政策は策定される予定である。前回のはおしゃかで新しいのがベストミックスだと云われても白けるが、少しでもベターな政策を期待したい。我々も大いに注目して、子細に検討する必要があろう。 補足であるが、前回の基本計画の最後の部分に非営利組織の役割が述べられており、”非営利組織は基本法及び基本計画において示された方向性を考慮しつつ、自律的な行動を行うことが期待される。国や地方公共団体は、こうした非営利組織の活動が促進されるように努める”とある。下線の部分は余計であるが、NPOの役割が認知されつつあることを素直に受け止めたい。

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