イギリスのゼロカーボンハウスの状況 2011.1.24 荒川英敏

田町CICにて  省エネコンサルタント荒川さんの講演内容

 先進国で初めてイギリス政府が20077月に“2016年以降に建設される新築住宅
全てZero Carbon Houseとする“との方針を発表して以来、イギリスの建築業
界では数種類の
Zero Carbon Houseの実験棟やモデルハウスが建設され、関係者
への公開が行われている。
しかし、これらはあくまでもデータ取得を目的とした実験棟であり、住宅で最
大切な“住む心地”の検証はなされていないのが現状である。
この様な状況の中、イギリス人建築家リチャード・ホークス氏は古くから伝わ
るヨーロッパの伝統工法と最新のハイテク技術の建材や設備そして可能な限り
CO2排出削減に貢献するリサイクル材の活用と地産地消を原則とするイギリス
・ケント州産の建材を使い、過去・現在・未来を融合した居住可能な
Zero Carbon House(年間のCO2排出量をネットでゼロに抑えた住宅)を 今年
2月ケント州に完成させました。
完成後、ホークス氏は自らが設計したこのZero Carbon Houseに家族と共に居住し、
積極的に“住み心地”の検証を進めています。
これはイギリスでは最初のことで
あり、その成果が大いに期待されています。

昨年の夏、イギリス・ケント州に完成して半年を経過したZero Carbon House
“Crossway
クロスウエイに設計者ホークス氏を訪ね、お話を伺うことができま
した。
(イギリスではカントリーサイドの住宅に名称を付けるのが一般的で、こ
の住宅を“
Crosswayクロスウエイ“と命名)

 85日、イギリスも夏真っ盛りとは言え、日本の連日35℃を超える猛暑から想像
出来ない気温25℃、湿度50%の天気の中、ロンドンから南東に約2時間の快適な
ドライブでした。
ケント州の豊かな穀倉地帯の真ん中に茶色のドーム状のクロスウエイの佇まいが
周りの緑に溶け込んでいる様は典型的なイギリスのカントリーサイドの風景でし
た。
クロスウエイに到着後、この住宅の設計者のホークス建築設計事務所主宰の
リチャード・ホークス氏と面会し自己紹介の後、ホークス氏の案内でクロスウエ
イの構造や
Zero Carbonの手法等について説明をうけました。 

まず設計コンセプトは「ヨーロッパに古くから伝わる伝統の工法に地元ケント州
産の
建材と最新のハイテク建材や設備を使い、過去・現在・未来を融合させ、
”住み心地の良い住宅である“
ことを念頭においた
Zero Carbon Houseを目指した」と熱く語られました。

  伝統の工法はテイブレル・バルテイングと呼ばれているドーム工法(14世紀にスペイ
ン・バレンシア地方で発祥した無支柱ドーム工法
) で、地元ケント州産のタイル
26,000枚を使った4層構造(120mm)とドームの居住空間の天井を占める部分には
防湿材と土壌が
300mm厚で盛られ、これが断熱材となるGreen Eco Roof
(植栽エコ屋根)となっており、このドーム型屋根には季節の花が咲き乱れる不
思議な風景を創り出していました。
更に
Zero Carbon仕様を達成する為に、建材の製造時に発生するCO2の削減が
出来るリサイクルマテリアルの活用は大きなポイントとなり、リサイクル古新
聞紙を使った
断熱材やリサイクル・クラッシュボトルをコンクリートのべた基
礎の上に細かく砕きセメントと混ぜて磨き上げた
1階の床は圧巻でした。
玄関ホールのリサイクル・古タイヤを使った床材も見事な仕上がりでした。
外断熱の高断熱・高気密構造、窓は全て
3重ガラス構造で、特に南側は開口部
を思いっきり大きく取り、ブライド内蔵の
3重ガラスを使い、採光とリサイク
ル・クラッシュボトル床への蓄熱を目的とし、内壁や天井に張られた特殊な
蓄熱・放熱材と共に建物のサーマルマス
(日本では蓄熱容量またはヒートマ
スと呼ばれている)
を増やすことによって室温を安定させることが出来、24
時間熱回収型換気システムと相まって快適空間を作りだしている。
一方、住宅に必要なエネルギーの大半を創り出す源はPV-Tと呼ばれる太陽光
発電・熱回収複合システムが使用されており回収された熱は特殊な蓄熱材
(パラフィン)が封入された蓄熱槽に貯えられ、浴室やキッチン、手洗いの
温水需要に対応している。
暖房設備は無く、人間やテレビ、パソコン等の電気機器の発熱で十分にまか
なえるとの事ですが、しかし日照時間が極端に短くなる冬の厳寒期の補助熱
源として、ウッドチップを燃やすバイオマスボイラー(
11kw相当)が設置
されています。
大半の電力需要は太陽光発電でまかない、電力使用量の大きい
IHクッキン
グヒーターや夜間の照明、テレビ、パソコン、冷蔵庫等は既にイギリスの
電力網に組み込まれている民間のグリーン電力と呼ばれる大規模な風力、
バイオマス、水力、太陽光等で発電された電気が使われる為、
CO2の排出は
ネットで
Zero(ゼロ)となっている。 

延床面積330㎡、2階建のクロスウエイの間取りは、1階の真空断熱を使った玄関
ドアから入るとリサイクル古タイヤを使った玄関ホールがあり、南側は居間と
台所、東の端が食堂、西の端はホークス氏の事務所となっています。
2階へは玄関ホールからの階段でつながっており、この階段もドーム屋根と同
じ地元産タイルの
3層構造でもちろん無支柱で、手すりは木廃材、欄干には地元
産の漁業用の丈夫なロープが使われている。
2階の床材は全て完璧に磨き抜かれた竹材でここも見事な仕上がりを見せていま
す。
廊下を中心に三つの家族用寝室と廊下の東端には客用寝室があり、廊下の北側
の壁が客用寝室のドアを兼ねており、来客時には廊下を塞ぐように大きく
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回転し、客用のトイレ・手洗い・シャワールームが出現する仕組みになってい
ます。
 クロスウエイは居住できるZero Carbon Houseとしてマスコミにも大きく取り上
げられ
問い合わせも殺到しています。
今後、更に再生可能エネルギー関連設備の価格が下がれば、
イギリス政府が目指
す“
Zero Carbon House by 2016 ”のモデルになる可能性を秘めており、ケンブリッ
ジ大学と連携した今後の活動が期待されています。
 

今回、建築家のホークス氏にお会いして感じたことは、彼の並々ならぬ
Zero Carbon House建設への情熱でした。
かって勤めていたロンドンの建築設計事務所から独立し、同じくロンドンシテイ
で大手投資銀行のファンドマネジャーであった奥様と一緒にホークス
建築設計
事務所を設立し、果敢に難題に挑みながら、家族を大切にしている若手イギリ
ス人建築家と情報交換ができた事と、完成させた居住可能な
Zero Carbon House
をつぶさに見学できたことは大きな収穫でした。
伝統工法を尊重しながら、極めて大胆な発想で見事に完成させたクロスウエイは
真に
Zero Carbon技術の塊であり、蓄積された様々なZero Carbon House造りのノ
ウハウはイギリス、
EUのみならず、きっと日本での居住可能な
Zero Carbon House建設のヒントになるのではないかと思っています。

 Zero Carbon House “Crossway クロスウエイ“の概略

タイルドーム型屋根構造木造2階建、延べ床面積330㎡、4寝室建設費用は約50
ポンド(約
6500万円、 為替レート130/ポンドの場合)

Zero Carbon Houseの主な仕様 

・外断熱
・高気密
・高断熱構造
・外壁:古新聞紙300mm厚断熱 熱貫流率 0.12w/k 
・一階床材:リサイクル
・クラッシュボトル+防湿材 熱貫流率 
0.11w/k 
・二階床材:竹材 
・ドーム型屋根:軽量タイル4(120mm)+防湿材+土壌(300mm厚)                       熱貫流率 0.12w/k 
・窓:
3層ガラス(ブラインド組込) 熱貫流率 0.7w/k 
・玄関ドア:真空断熱構造(
50mm厚) 熱貫流率 0.7 w/k
・気密:高性能な特殊気密シートを使用 0.72/k @50 Pascals 
・内壁:プラスタボード+羊毛遮音材 一部に蓄熱
・放熱材を使用
 
・玄関ホール床材:リサイクル古タイヤ
 
・キッチン天板:リサイクル古紙幣
 
・階段手すり:木廃材+地元産ロープ
 
PV-T設備:太陽光発電
・熱回収複合システム 
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・蓄熱層:特殊蓄熱材使用
 
・ボイラー:バイオマスボイラー 
11kw 
・地下雨水貯水タンク
・汚水浄化システム
IHクッキングヒーター

認証関係
・イギリス
・省エネラベル最高ランク
A-A取得
EU Passiv Haus 認証取得

Zero Carbon House 設計開発協力  
・ケンブリッジ大学建築学科
  
・スコッツウイルソン
・エンジニアリング
  
・ケンブリッジ大学にてデータの一元管理

“住み心地”の検証
設計者自ら家族と共に居住し、“住み心地”を検証中外観写真
ecohouse.JPG
イギリス・ケント州の穀倉地帯に佇む
Zero Carbon House “Crossway クロスウエイ“

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