「竜巻のふしぎ」森田正光・森さやか共著 2018年7月3日 吉澤有介

-地上最強の気象現象を探る-  共立出版2014年8月刊

竜巻は特異な自然現象で、個人としてはめったに出会うものではありませんが、もし一旦遭遇したらたいへんな被害をもたらします。ところがその竜巻についての本が、ほとんど出ていません。本書で、お天気キャスターのお二人が、はじめて易しく解説しています。
竜巻の多くは、逆三角錐の形をしています。太いものや細いものなどさまざまですが、細くても破壊力は強烈です。竜巻は大気が不安定のときにできる積乱雲によって発生します。上空に強い寒気が入ったり、地上の気温が上がったりして、その気温差が40℃を超えて大きくなると、自然界はその温度差を復元しようとして、地上から暖気が上昇し、上空から寒気が降りてきます。その対流が激しいほど積乱雲も発達し、竜巻が起こりやすくなるのです。

しかし竜巻の正体はなかなか解明されませんでした。逃げ足が速いので、観測が間に合わないのです。そこに登場したのが、シカゴ大学の藤田哲也教授でした。竜巻の被害状況から風速を推定する画期的な方法を開発し、「藤田スケール」は世界の指標になっています。

F0 軽度   17~32m 煙突やアンテナが壊れ、木の枝が折れる

F1 やや強い 33~49m 屋根瓦が飛び、窓ガラスが割れる、

F2 強い   50~69m 住宅の屋根が飛び、小屋は倒壊、大木倒れ、車が吹き飛ぶ

F3 強烈な  70~92m 壁が倒れ、鉄骨がつぶれる。列車が転覆、大木が倒れる

F5 想像超え ~142m  住宅は跡形なく、立木の皮が剥ぎ取られ、列車が吹き飛ぶ

これ以上は、もしあっても何も残らないので判別できませんが、F12まで設定しています。

世界の竜巻の約4分の3はアメリカで発生しています。国土の地理条件によるものですが、面積あたりでみると、日本もアメリカの半数の竜巻が発生しています。最古の記録は、1180年の京都で、鴨長明の「方丈記」に、街が壊滅したと記されています。観測史上最大の竜巻は1990年千葉県茂原市のF3で、死傷者74人、建物243棟が全半壊、10トンのダンプカーなど1000台以上の車が吹き飛ばされました。1978年には、川崎市から千葉に時速130㎞で駆け抜けた竜巻が、荒川鉄橋で東西線の列車を脱線させています。最近では、2012年5月のつくば市の竜巻がありました。一般に竜巻は都市では少ないとされてきましたが、近年の局地的な豪雨などの増加もあり、いつどこでも発生する可能性があるのです。
局地的に強風をもたらす気象現象に、「ダウンバースト」があります。強い下降気流が巨大な積乱雲から発生し、離着陸の航空機に大きな脅威となっています。竜巻の上昇気流との違いはありますが、これこそが藤田博士の竜巻研究のきっかけとなったものでした。
本書では、藤田の略伝が紹介されています。1920年福岡県企救郡中曽根町(現北九州市小倉南区)に生まれました。父は地理の教師でしたが、哲也が18歳の時に死去、進学を諦めていたときに、中学の校長が明治専門学校(現九州工大)に入学させ、のちに助手になりました。長崎の原爆跡調査で爆風を推定し、背振山で強い下降気流現象を発見した論文で、シカゴ大学に招かれ、世界の藤田になったのです。1998年没、享年78才でした。「了」

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