「日本列島SOS」 桜井邦朋著 2017年9月1日 吉澤有介

- 太陽黒点消滅が招く異常気象 ― 小学館2015年6月刊
著者は、京都大学理学部地球物理学科卒、同工学部助教授を経て1968年よりNASA上級研究員、メリーランド大学教授。帰国後神奈川大学で教授、学長。現在は早稲田大学招聘研究員の宇宙物理学者です。NASAで、太陽面上で観測される高エネルギー現象を研究しているうちに、太陽活動の衰退が地球気候の寒冷化に大きく関係することを知りました。本書では、太陽の黒点の変化に注目して、その地球への影響を詳しく論じています。
その内容は驚くべきものでした。太陽表面の黒点の数は増減します。この変化は太陽活動に連動しており、活動が活発なときには増加し、活動が衰退すると減少し、その発生頻度は11年周期で変動しています。ところがその黒点が2000年以降、現在まで殆ど観測されていません。15年以上にわたって太陽活動が著しく低下しているのです。
これまでも無黒点状態が長く続いたことがありましたが、極小期と呼ばれるその時期には、地球は極端に寒冷化していました。今回もその可能性がありそうなのです。過去の極小期を、歴史的に見てみましょう。
・ウオルフ極小期    1280~1350年
・シュペーラー極小期  1420~1570年
・マウンダー極小期   1645~1715年
・ドールトン極小期   1790~1830年
とくにマウンダー極小期では、ロンドンのテムズ河が夏でも氷結して、氷上パーテーが開かれ、オランダの運河でもスケートができたといいます。たいへんな飢饉になりました。またドールトン極小期では、欧州各国でコムギの価格が高騰しました。これがフランス革命のきっかけになったといいます。またその上に1783年(天明3年)の浅間山大噴火があり、アイスランドのラーキ山の噴火が続いて、地球環境が一気に寒冷化したのです。火山の影響のほうが大きかったとしても、太陽活動は確実に衰えていました。統一された黒点の数え方である相対的黒点数でみると、太陽活動周期11年ごとの極大値が130以上あったのに、この時期にはそれが4~8しかありませんでした。ちなみにこれまでに観測されたピークは1950年ころの190.2でした。それが現在はほぼ0になっているのです。
黒点の温度は約4000℃で、まわりの表面の6000℃よりも低いので黒く見えます。それが強力な磁場で大量のプラズマやフレアを発生しており、太陽のその磁気活動が弱くなると、天の川銀河のどこかから加速されてくる宇宙線と呼ばれる高エネルギー粒子の侵入を増大させ、地球気候の変化を引き起こしていると推測されます。この宇宙線粒子が地球大気中に侵入すると、大気をイオン化して水滴の凝結を誘発し、下層雲の形成を増大させて、太陽からの電磁放射エネルギーの地表への到達を邪魔するようになるのです。
現在は、太陽活動の衰退が地球の温暖化を押しとどめているようです。これまで単調に進んできた世界の平均気温の上昇が、2000年以降にほぼ止まっているのです。それも極端な気候変動を伴ってのことでした。寒冷化と温暖化の危ない均衡なのかも知れません。「了」

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