「アナザー人類の興亡史」金子隆一著 2014年12月30日 吉澤有介 

—人間になれずに消滅した傍系人間の系譜—
本書の扉には、ホモ・サピエンスが誕生するまで人類は容易ならざる歴史を歩んだ。
それは、われわれの祖先の遠い血縁者であるさまざまな「アナザー人類」が生き、そして地上から永遠に消えていった過去である。
本書は彼らの数百万年の興亡を追い「ホモ・サピエンスの真の歴史に迫ろう」とするためと書かれています。
本書は、そのようなヒトの進化史を俯瞰しようとする最新の試みです。
しかしこの古人類学はいままさに古今未曾有の大発展期にあるようです。
1992年にエチオピアで直立歩行をしたとされる440万年前のアルデイピテクスが発見されたのを皮切りに、2000年には、ケニアで600万年前のオロリンが、2001年にはチャドで、700万年前まで遡るサヘラントロプスが発見され、私たちのヒトの初期進化の認識が大きく変わることになりました。
一方2003年にはインドネシアで、つい1万2千年前まで確実に生きていた矮性人類のホモ・フローレシエンスの化石が、多くの石器とともに発見され、私たち現生人類の時代にひっそりと生存していたことが明らかになりました。
まだ何が出てくるかわかりません。
最近の古人類学では、分子系統学、古遺伝学、質量分析や年代測定、化石の非破壊検査などの新技術が導入され、過去20年ほどの間に様変わりしました。
これまでの系統仮説が瞬時に塗り替えられることもあるのです。
それに本書の執筆中にも新しい発見が相次ぎ、2011年1月にはホモ・サピエンスがアフリカを出たのは12万年以上前にもあったという新説が報じられました。
アラビア半島で発見された石器から、彼らは直接海を渡ったらしいというのです。
また更新世の人類デニソワ人のDNA解析で、彼らはネアンデルタール人と共通の祖先から出て、東アジア一帯に分布し、現代人の一部に入り込んでいたことも判明しました。
さらに遡れば1800万年前の地球は類人猿、つまりまさに「猿の惑星」だったといいます。
アフリカからユーラシア大陸まで、多様な類人猿が繁栄を謳歌していたのです。
その中からヒトの祖先がどのように誕生したのか。人類の起源は「ミトコンドリア・イブの単一起源説」が有力ですが、「多地域進化説」もまた捨てきれません。
本書は、その化石発見の経過を丹念に追っています。
多くの写真や図版が紹介されていますが、僅かの遺物のかすかな特徴からどんな霊長類がヒトを生みだしたのかを突き止めてゆくのです。
そしてヒトの直系祖先が次第に明らかになってきました。
アウストラピテクスが200万年以上存続していましたが、やがてホモ・エレクトウスが出現しました。そこに氷河期がやってきたのです。
僅かに絶滅を逃れた彼らが、現生唯一のヒト属として繁栄してきましたが、それは他の種より知的に優れて環境に適応したためではありませんでした。
単に運が良かったのです。ホモ・サピエンスのDNAは、その後も彼らが絶滅寸前まで人口が急減したことを示していました。
その原因は、スマトラ島にある世界最大のトバ・カルデラの7万4千年前の巨大噴火でした。
地球の平均気温は5℃も低下し、その影響は6千年も続きました。壊滅したホモ属のうち数百人だけがアフリカ南端のシェルターで生き延びたものと見られます。
進化の行方には何一つ確かなものはないのです。「了」

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